ニューヨークに妻子と暮らす作家のコリン・ビーヴァンは自分の生活に疑問をいだき、次の本のネタ作りも兼ねて、ニューヨークで環境にやさしい生活を送ることを決意する。まず1年間新しいものを買わず、なるべくゴミを出さないことに決め、さらに食べ物は近郊でとれたものだけに。そして最終的には電気もやめようと考えるが、奥さんのミシェルは買い物中毒のカフェイン中毒だった…
NYで自らが実験台となってブログが人気を集めた「No Impact Man」ことコリン・ビーヴァンを追ったドキュメンタリー。普通の人目線で環境問題が扱われていて面白い。

 環境系のドキュメンタリーというと環境活動をしている人を追いかけたり、環境問題を詳しく解説したり、いわゆる啓蒙的な物が多いけれど、この映画はそれとはちょっと違って、環境には特に詳しくない作家が地球に負荷を書けない生活を送ってみるという実験を行なってみたのを追うという映画。

実験といってもスーパーサイズ・ミーのように製作者自身が被験者ではないので、前のめっている感じもなく、環境という題材にあったバランスのとれた感じの映画になっている。

バランスといえばこの夫婦もバランスがいい。自ら実験をはじめたコリンはもちろん環境に対して感心があるわけだが、巻き込まれる形になった奥さんのミシェルの方はカフェイン中毒で買い物中毒、ローカルフードしか食べられないためにコーヒーが飲めなくなると知ると急いでスタバでグランデサイズを何杯も飲み、コンポストのためのミミズには大騒ぎする。

まあ、しかし実際のところこういうのが普通の反応で、手を伸ばせば手に入る便利なものをあえて使わず、手間と時間とお金がかかる不便なものをあえて使うという生活を簡単に受け入れられるはずはないと思う。しかし、そのミシェルも実際にローカルフードを食べ、キャンドルで夜を過ごすというような生活を送っているうちにだんだんその心地よさに気づいていく。その気づきこそがリアルであり、この実験の一番重要な意味だったのではないか。

映画の方もそのミシェルの変化がプロットとして一番面白い。中でも 電気を切って冷蔵庫がなくなってしまったために、牛乳をどうやって保存しようかと苦心するコリンを見つめるミシェルの態度なんてのはなかなか考えさせられる。

そして、もう一つ共感できるのは、これが1年という期間を区切った実験であるということ。ニューヨークという都会で電気も使わず、ゴミも出さず、ローカルフードしか食べず、交通機関を使わないなんていうストイックな生活をずっと送るのはやはり無理があり、それをやるなら田舎に住めばいいと誰もが思う。しかしコリンはそれに近いことをニューヨークでどこまでできるかを検証することが目的だったのであり、そのためにはやはり期限を切る必要があった。その結果、ずっとつづけられることは続ければいいし、無理しないとできないことは出来る限りやればいい。その限界を知るための実験であったというのがいいところだ。

実際この映画を観ると「ここまでだったら自分でもできるかな」と思うことも度々あり、東京という都会で暮らしながらでもできることがあるのではないかと考えさせられる。まあ実際にやるかどうかは別にして、コンポストだとか、太陽光パネルだとか、ファーマーズマーケットで買うだとか、どういうことはやってみてもいいかなと思う。

映画としても面白いし、普通の人にそういう行動を起こさせる力があるという点でもドキュメンタリーとして優秀なのではないかと感じた。

2009年,アメリカ,92分
監督: ジャスティン・シャイン、ローラ・ガバート
撮影: ジャスティン・シャイン
出演: コリン・ビーヴァン、ミシェル・コンリン

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