アイスランドを観光で訪れたアネットはホエールウォッチングに参加するが乗客の一人の悪ふざけで船長が重症を負い、助手も逃げてしまう。そこに助けが来るが、安心したのもつかの間、連れていかれた捕鯨船はホエールウォッチング客を目の敵にするいかれた一家のものだった…
捕鯨が禁止され、ホエールウォッチングを観光の目玉にしたアイスランドを舞台にしたブラック・スプラッター・コメディ。裕木奈江が重要な役どころで出演。

 アイスランドはかつて世界第3位の捕鯨国だったが、世界的な捕鯨禁止によって捕鯨は激減、ホエールウォッチングを観光資源として外国人を呼ぶという捕鯨に携わっていた人たちにとっては皮肉とも言える変化を遂げた。

この映画はその皮肉を取り上げて、もしホエールウォッチング客を逆恨みして復讐する元クジラ漁師がいたら…という設定でホラーとして作られたもの。その設定もかなりトンでるが、最初から怪しい人物ばかりが登場する曲者映画だ

ホエールウォッチング・ツアーに参加するのは、主人公らしいアネットと若い女性がもう一人、黒人の青年、ドイツ人のおばさん3人組、日本人の夫婦とメイド?のエンドー(裕木奈江)、酔っぱらいのフランス人という10人(多分)。そして、狂った元クジラ漁師一家の船に連れて行かれるとすぐに殺され始めるわけだが、誰が殺されて誰が生き残るかというのは大体予想通り。しかし、ハリウッド映画だと団結して敵と立ち向かい、ドロップアウトしたら死んでいくという構図になるのがここではそうならない所が面白い。さらには、ヒーローとヒロインが恋に落ちるというハリウッド的なサブプロットも素直には行かず、典型的なハリウッド・パニック映画に対するアンチテーゼとも言えるような映画になっている。

なので、ハリウッドのホラーを見慣れているとすごく居心地が悪く、嫌な感じがずーっと残る。首がちょん切れたり、血が吹き出したりという残虐シーンも結構あるが、そういったシーンよりもむしろこの違和感のほうが気持ち悪く感じる。

しかしそれこそがこの映画の狙いなのではないかと思う。この違和感というのはハリウッドというデファクトスタンダードによって画一化されたパニック映画像とは異なるパニック映画のスタイルを提示されたことによって生じるものだ。それは、「捕鯨禁止」という果たして科学的根拠があるのかないのかわからない世界的に画一化された標語に対しても疑問を呈することになる。パニックが起きたときに人々が取る行動は一様ではないように、「クジラ問題」も一様では捉えられないということを言おうとしているのではないか。

というのは考え過ぎかもしれないが、「クジラは賢いから保護するべきだ」というクジラ保護の理由の一つに対して疑問を投げかけていることは確かだ。それによってこの映画がホラー映画として面白くなるわけではない所がなかなか悩ましいところなわけだけれど、「なんだか気持ち悪い映画」として忘れることのできない強烈な映画になったことは間違いない。

同じ捕鯨国の国民としてこの映画をどう見るか、日本人の女優を起用した理由はなんなのか、そんなことを考えながらホラー映画を見るという非常に稀有な経験をしたということもなかなか面白かった。

2009年,アイスランド,90分
監督: ユリウス・ケンプ
脚本: ショーン・シングルドソン
撮影: ジャン=ノエル・ムストーネン
音楽: ヒルマン・オルン・ヒルマルソン
出演: ガンナー・ハンセン、テレンス・アンダーソン、ピヒラ・ヴィータラ、ミランダ・ヘネシー、裕木奈江

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