運送会社で働く宮田淳一は胃の痛みに悩まされていた。大学浪人中の息子と高校3年の娘を持つシングルファザーの彼は、自分が癌なのではないかと悩み、唯一の友人である真田に居酒屋で悩みを打ち明ける。悩みを抱えながらも子どもたちの前ではダンディであろうと強がる宮田だったが、子どもたちとの間には会話もあまりなくギクシャクした関係が続いてしまう…
『川の底からこんにちは』の石井裕也が中年のオジサンの悲喜こもごもを描いたコメディ。まともすぎてちょっと拍子抜け。

 石井裕也監督の作品は『川の底からこんにちは』が面白く、今のところの最新作の『ハラがコレなんで』も面白かったので、少し戻ってこの『あぜ道のダンディ』を見てみた。『川の底』と『ハラがコレ』に共通するのは主人公となるヒロインの割り切りであり、決して幸福とは言えないはずの環境でも割りきって楽観的にいることで人生も楽しくなってしまうし、観客もそれに引きずられて楽しくなってしまうという仕掛けだった。そして、その持って行き方がなかなか強引で、その強引さの引っかかる感じというかザラザラ感というか、それがすごく映画的でよかったのだ。

さて、この映画。主人公はヒロインではなく、中年のおっさん。早くに奥さんを亡くし、男手ひとつで息子と娘を育ててきたけれど、18、19という年頃になり、コミュニケーションがなかなかうまく取れない。そんなおっさん宮田の唯一の友人で子供の頃からの親友である真田は7年間介護した父を亡くしたばかり。そんなふたりが悪戦苦闘するというのが物語の中心。

まあ、この二人のおっさんは面白い。男ってのは50になっても基本的には中学生の頃と変わらない。中二病なんて言葉もあるけれど、その頃の友達と合えば、あっという間にその頃に戻って馬鹿な事で喧嘩をしたり、そのままあほなことをしたりするわけだ。でも、彼らは子どもたちのと関係をなんとかしなくちゃいけなくて、そのベクトルがまあズレてるわけだけれど、そこは子供のほうがよくわかっていて、まあ何とかなるというわけだ。

悪い映画じゃないんだけど、なんかこうすごいまともというか、他の作品(といっても2本しか見ていないわけだけれど)に見られるいい強引さというものが無いので、すーっと見れてしまう。一ヶ所だけ宮田が見る夢のシーンでなかなか妙なシーンが有るんだけれど、引っかかってくるのはそれくらいで全体としてはなんとも素直な作品になってしまっている。「なってしまっている」というのも変だけれど、映画の冒頭には感じたザラザラとした感じが徐々に薄れて行ってしまって、どんどんスムーズになっていっている感じがしたのだ。これは何故だろうと考えてみると、主人公がオジサンであるためにそのザラザラとした感じがキャラクターと一致してしまってその引っかかりが失われてしまったのではないかと思う。

実は『川の底』や『ハラがコレ』で感じたザラザラ感というのは、若い女性というステレオタイプと実際のキャラクターの齟齬から生じているものだったのだとこの映画を観て思う。おじさんのステレオタイプとこのキャラクターの間にはそれほどの齟齬がなく、結果的にストレートな映画になってしまった、そんなふうに感じる。

なんか結局いい話で、「へーそー」と思う。うーん、でももっと他の作品も見てみたい。

2010年,日本,110分
監督: 石井裕也
脚本: 石井裕也
撮影: 橋本清明
音楽: 今村左悶、野村知秋
出演: 光石研、吉永淳、岩松了、森岡龍、田口トモロヲ、藤原竜也、西田尚美

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