長年連れ添った夫を亡くしたイヴリン、退職後に暮らす老人用の家を見て回るダグラスとジーンの夫婦、知人の訃報に接し突然判事を辞めることにしたグレアム。「これから」に悩む彼らが見つけたのはインドにある長期滞在型の高級リゾートホテル。オープンしたばかりというそのホテルに7人の老人たちが客として集まるが…
英国を代表する名優たちが異国で戸惑う老人たちを演じたヒューマンコメディ。監督は「恋におちたシェイクスピア」のジョン・マッデン。

 いろいろな事情を抱えて老人たちがインドのホテルにやってくる。主人公と言っていいジュディ・デンチ演じるイヴリンは夫が残した借金のために自宅を売らざるを得ず、少ない資金で過ごせるこのホテルを選んだが、基本的にはそれなりに余裕があって、南国で余生を過ごそうという感じの人達が集まるものだ。

しかしその中には車いすで人種差別意識を隠そうともしない偏屈なばあさんがいたり、色ボケで出会いを求めて直ぐにバレる嘘ばかりついている爺さんがいたり、全く土地に馴染もうとせず夫に文句を言い続けるばあさんがいたりする。

彼らに共通するのは、心に隙間を抱えているということだ。誰しも心に隙間ぐらい抱えているが、ここに登場する老人たちはどこか孤独なのだ。となると、新たな土地で、おんぼろのホテルだけれど頑張っていこうとしている人たちに接して、心が徐々にほぐれいていってという心温まる話になりそうだが、まあ、そこは老人なので一筋縄には行かない。人間やはり長い人生を過ごすと自分の考えに知らず知らずのうちに固執するようになり、他の考えを頭ごなしに否定するようになる。その典型的な例が土地に馴染もうとしないジーンだ。それに対して夫のダグラスは新しい土地にすぐに馴染み、自分なりの楽しみを発見しようとしているようにみえる。ならば彼は柔軟な考えの持ち主なのかというと、別にそういうわけではなく、彼は新しい環境ではその環境に馴染むようにするという考えを形成してきたというだけのことだ。長い間夫婦であったろうに、2人は別の考え方を自分の中に固めてしまい、もはや分かり合うことはできなくなってしまったように見える。

そんな彼らだからそう簡単に心の隙間を埋めることはできない。変化は生じるけれど、彼らの心の隙間は隙間としてそのまま存在し続けるようにみえる。

その辺りが若者の成長物語とは違うところで、そしてそれがこの映画の一番いいところだ。年を取れば取るほど人はそう簡単に変われなくなる。しっかりと構築された自分というものはなかなか揺るぎ無く、その土台から変化を起こすことはできなくなるのだ。しかし、全く買われないわけではない。土台の部分は変わらなくても表面に出ている部分は変わることができ、そうすることで少しでも人生を豊かにすることはできる。それは小さな変化であるけれど、意味のある変化だ。あるいはそれは時には変化ではなく、奥底にしまわれていたものが表に出てきたというだけなのかもしれない。

この映画に登場する名優たちは、そんな微妙な変化を見事に演じている。特にそれを感じるのは無言の「間」だ。ジーンに言いがかりを付けられたダグラスが言い返さずにただ相手を見つめる「間」、他にも会話が途切れて生じた間、言葉が通じずに生じる「間」もその一つだろう。もちろんそこには読み取る側の気持ちも関係してくるわけだが、その「間」の瞬間に彼らは自分の過去を振り返っているのではないかと思わせる何かがある。

映画には老人ものというジャンルがすでに確立していると思うけれど、そんな老人ものが好きな方は必見、特に好きではなくてもヒューマンコメディとして観る価値はある。

DATA
2011年,イギリス=アメリカ=アラブ首長国連邦,124分
監督: ジョン・マッデン
原作: デボラ・モガー
脚本: オル・パーカー
撮影: ベン・デイヴィス
音楽: トーマス・ニューマン
出演: ジュディ・デンチ、デヴ・パテル、トム・ウィルキンソン、ビル・ナイ、ペネロープ・ウィルトン、マギー・スミス

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