海運会社に務めるリチャード・フィリップスはオマーンからケニヤに物資を運ぶ船に船長として乗り込んだ。一方、ソマリアの漁村では、漁師のムセが現地の権力者に迫られ、海賊行為のため船に乗り込む。リチャードが海賊が出るとの情報を得て、船員に緊急訓練をさせていたところ、追尾してくる2艘の不審な船に気づいた…
実際に海賊の襲撃を受けた経験を持つ船長の回顧録を映画化。海賊との戦いを描いたパニック映画。

 海賊に襲われた船の船長と船員たちがうまいこと海賊を追い払うことに成功するが、提供した救命艇で海賊の人質となってしまう。連絡を受けたアメリカ政府はネイビー・シールズを出動させ、救出作戦を開始する。

この映画のポイントは、まず船にやってきた海賊たちと船長との知恵比べ。海賊たちはボスだかから大金や積み荷を奪ってくることを求められており、船長は船員たちの無事をとにかく願う。次は、救命艇に人質となった船長が海賊たちと信頼関係を築き、解放させることができるのか、それともネイビー・シールズの救出作戦により救われるのかという展開。

その中で、フィリップスは海賊の一人、一番若いメンバーが必ずしも海賊をやりたくてやっているわけではない、むしろ抜けたいと思っているだろうことを見抜き、彼を味方に引き入れようとする。そこには、自分にも子どもがいる身として、彼を救ってあげたいという思いが働いたのかもしれない。自分自身の命が危ぶまれる中で果たしてそのような気持ちが湧いてくるのかどうかわからないが、そういう極限状態だからこそ湧いてくる感情というのもあるのかもしれない。

しかしもちろん、そのことを救出しようとしている軍に知らせる手段はなく、海賊たちは全員が排除の対象となるわけだ。なので最後はもちろんアメリカ軍は人質を見事に救いだすことになるわけだが、救命艇の中のそのような描写によって苦々しいものが少し残る。ソマリアの人たちが海賊行為を行う背景、それを思わずにはいられない。

もちろんそんなことを考えずに悪者から人質を救うエンターテインメントとして消費しもてよいわけだが、それだけだとしたらあまり面白い映画とは思えない。トム・ハンクスがアクションで活躍するわけではもちろん無いし、ネイビー・シールズも活躍はするが、驚くような作戦で軌跡のようにフィリップスを救うわけではない。見どころはトム・ハンクスと海賊たちを演じた役者の緊迫感のある演技だけということになるだろう。

それよりは、結局通じ合うことができなかった海賊と人質の物語、加害者と被害者の入れ子構造が永遠に続く先進国と第三世界の物語と見たほうが、映画として観る意味があるように思える。もちろん、この映画はそのような物語の結末は一切描かない。ただ、アメリカの勝利を描くだけだ。しかし、その勝利によって海賊が根絶されるわけではもちろんなく、これからも他に道がないからゆえ海賊になる人達が生まれ続けることは示唆されているように思える。

見終わって考えてみると、このような衝突が生まれた背景にあるさまざまな事象に思いが至る。アフリカの貧困というのはもちろんだけれど、アフリカの都市間の輸送をアメリカの海運会社が担っているということ、そしてその救出のため、アメリカ軍がアフリカで軍事行動を行うということ。そのことをアフリカの人々はどう思っているのか、世界にネットワークを持つグローバル企業と世界中の国々の関係をどう捉えればよいのか、などだ。

なんとなくそんなことは思うけれど、この映画やはりたいして面白くはなかった。緊迫感はあるけれど、それが間延びしすぎている感じがする。最終的に救出されるだろうことがわかっているだけに、冗長に感じられるのだ。これを90分ぐらいの長さに凝縮することができたら、考えさせながらエンターテイメントとしてもテンションを維持できる面白い映画になったのかもしれない。

DATA
2013年,アメリカ,134分
監督: ポール・グリーングラス
原作: リチャード・フィリップス
脚本: ビリー・レイ
撮影: バリー・アクロイド
音楽: ヘンリー・ジャックマン
出演: キャサリン・キーナー、トム・ハンクス、バーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、マイケル・チャーナス

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