チョムスキー 9.11
2003/2/1
2002年,日本,74分
- 監督
- ジャン・ユンカーマン
- 撮影
- 大津幸四郎
- 音楽
- 忌野清志郎
- 出演
- ノーム・チョムスキー
マサチューセッツ工科大学の言語哲学課の教授という肩書きを持つかたわら、さまざまな社会問題、特にアメリカの外交政策について辛らつな批判を重ねてきたノーム・チョムスキーはセプテンバー11以後のアメリカの報復行動を批判したことによってマスコミのさらなる注目を集めた。
そのチョムスキーの2002年ごろの活動の断片を追ったドキュメンタリー。日本に拠点をおいて活動を続けるドキュメンタリー作家ジャン・ユンカーマンが監督、日本の製作会社によって製作された。
チョムスキーのことを知らない人は、とりあえずこの映画を見なさい。
現在の世界において、チョムスキーの発言はいくら強調しすぎてもしすぎることはない。9.11以降のパトリオティズムの高揚はアメリカにとどまらず、拉致問題によって日本にも飛び火した。この作品が作られて時点では拉致問題はまだ急展開を見せてはおらず、そのことは触れられていないが、果たしてチョムスキーはこの拉致問題にどのようなコメントをするのかということも非常に興味深い。
北朝鮮の拉致という行動が非人間的で残虐な行動であることは間違いないが、それによって北朝鮮のすべてを悪と決め付け、対北朝鮮の行動のすべてを正当化するべきではない。問題はもっと複雑だ。もちろん無血で金正日の政権が倒れ、より民主的で国民を尊重する政府が成立するのが理想的なわけだけれど、今現在北朝鮮には飢えた人たちがいるということを忘れてはならない。もちろん、日本が朝鮮の人々に対してやってきたことも忘れてはならない。
チョムスキーもこの映画の中で、アメリカとの対比で日本について「敗戦国は自分のやったことを省みざるを得ない立場にいるからまだいい」というような発言をしていた。
チョムスキーが繰り返し言っていること、繰り返し本に書いていること、そのことがこの映画でも語られる。聞いたこと・読んだことがない人にとっては目を開かれるような事実であり、効いたこと・読んだことがある人にとっては繰り返し聞くことによってよりチョムスキーの言うことを理解できるようになる。チョムスキーが講演の聴衆に向って「聞こえますか?」というとき、それは単に音声が届いているかということを訊いているのではなく、「私の言葉はあなたに届いていますか?」ということもたずねている。あるいは「私の言うことをよく聞いてください」というお願いである。
チョムスキーが繰り返し言っていることとは、アメリカこそが世界最強・最悪のテロ国家であるということであり、国際司法裁判所によってテロ国家と認定された唯一の国であるということだ。
私が付け加えるべきことは、日本もまたそのテロに加担しているということだ。ペルシャ湾にイージス艦を派遣することを誇らしげに語る小泉首相や石破防衛庁長官はアメリカのテロの片棒を担いでいるといわざるを得ない。そんな小泉首相が靖国神社を参拝するということ。そのことによってアジアの国々の人々が感じる痛みをせめて想像できるようにしていなければ。小泉首相には無理でも、われわれはそれが出来るようにしていなければ、日本がアメリカと同じテロ国家への道を本格的に歩みだすのもそう遠い未来ではないということになる。
チョムスキーのいうことを聞いて、考え、自分の適用してみると、いろいろなことが頭に浮かんでくる。その一部が今書いたようなことだが、他にもいろいろなことが頭に浮かぶ。その一つ一つを書いていくよりも、まずいうべきなのは、チョムスキーを聞き、チョムスキーを読み、それから自分で考えなさい、ということだ。チョムスキーに目を見開かれよ。