三十九夜
2003/2/19
The 39 Steps
1935年,イギリス,88分
- 監督
- アルフレッド・ヒッチコック
- 原作
- ジョン・バカン
- 脚本
- チャールズ・ベネット
- アルマ・レヴィル
- イアン・ヘイ
- 撮影
- バーナード・ノールズ
- 音楽
- ルイス・レヴィ
- 出演
- ロバート・ドーナット
- マデリーン・キャロル
- ペギー・アシュクロフト
- マイルズ・メイルソン
ロンドンの芝居小屋で何でも記憶するというMr.メモリーなる人物の出し物の最中、発砲事件がおきる。その見物客の一人でカナダの外交員のハネイはそこから一緒に逃げ出した女アナベラに求められ自室に。そこで自分はスパイであるといううち明け話を聞かされ、「39階段」という謎めいた言葉を聞く。そして、その夜アナベラは殺され、ハネイは逃亡のたびに出ることになる…
イギリス時代のヒッチコックの代表作の一つで、『北北西に進路を取れ』を髣髴とさせる男の逃亡劇。自分の意思にかかわりなく事件に巻き込まれてゆくというのもヒッチコックの得意のパターン。1959年と1978年にリメイクされている。
この映画のポイントはモンタージュ。モンタージュとは何かということになると、いろいろと議論はあるけれど、とどのつまりは編集ということで、カットとカットを組み合わせて何らかの効果を狙うということ。元祖といわれるのはエイゼンシュテインで、なじみのあるところではゴダールをはじめとしたヌーヴェル・ヴァーグの作家たち。もちろんハリウッドや日本でも使われ、モンタージュを利用しない映画は映画ではないといっていいほどである。
と、言われても何がモンタージュかわからないわけですが、この映画でモンタージュが顕著に使われているところといえば、列車のシーン。列車は『バルカン超特急』などで代表されるようにヒッチコックの大得意なわけですが、一つの個室から外に出て別の個室に入るというとき、列車の中のカットと列車の外のカットは全く別に撮るわけで、撮っているのも別のセット。それを編集によってつないであたかも列車の中で行動しているかのような連続性を獲得しているわけです。
まあ、このあたりは基本的なモンタージュというわけですが、この映画でうまいと思うのは、一瞬はさまれるカット。たとえばアナベラの死体を発見する掃除婦。1秒にも満たない掃除婦の叫ぶ顔のアップが全く関係ないカットに挟まれて一瞬映るだけだが、その短さが逆に観客の注意を引く効果をもつ。しかも映画が時間軸に沿って展開し、死体発見の瞬間がハイネの時間のどこに当たるのかということもわかるようになっているのもうまい。
ヒッチコックというのはやはり映画史上の一つのジャンルと言っていいほどの重要さを持っているというのは、ヒッチコックを見ればさまざまな映画の手法やスタイルの歴史が想起されるということからもわかる。この映画で私が引っかかったのはモンタージュだったけれど、それにとどまらず、ソニマージュと言えなくもない音の使い方なども考えるに値する。他の映画を見ればまた他の手法などが、あるいは現在あるジャンルの源流が探れたりすることもある。
もちろん、サスペンスとしてもかなり面白く、私は初めてだったので、なかなか楽しめたのですが、そのように映画についてさまざまなことをつらつらと考えられると言うこともヒッチコックの映画の魅力であると思います。いま映画を撮っている監督たちもヒッチコックの映画を見て、いろいろなヒントを得ているのだから当たり前といえば当たり前なのですが、ヒッチコックを見るたびに、そんなことを考え、書いてしまうのはそれがヒッチコックだから。
意外に映画そのものについてはあまり書くことがなかったりもします。映画を見ている間はただ楽しんで、映画を見終わって考えてみると、個々の映画よりもヒッチコックというジャンルをどう見るのかという問題に頭が行ってしまう。ヒッチコックの映画とは私にとってはそのようなものであるようです。