古都
2003/2/22
1963年,日本,105分
- 監督
- 中村登
- 原作
- 川端康成
- 脚本
- 権藤俊英
- 撮影
- 成島東一郎
- 音楽
- 武満徹
- 出演
- 岩下志麻
- 吉田輝雄
- 早川保
- 長門裕之
- 環三千世
- 中村芳子
- 宮口精二
- 東野英治郎
京都、呉服問屋丸太屋の一人娘の千恵子は両親の赤子を盗んできたという説明に耳を貸さず、自分は捨て子だと信じていた。美貌に恵まれた千恵子には織師の息子秀雄らが思いを寄せていたが、千恵子は両親の言いつけを守ろうと決めていた。そんな千恵子が北山の杉林に行った折、自分にそっくりな娘を見かける。そして、祇園祭の宵宮でその娘に偶然再会。娘は苗子といった…
川端康成の原作を、女優を取らせたら右に出るものはいないといわれた中村登の監督で映画化。まだ女優として開眼する前の岩下志麻が二役で主演し、熱演している。
いきなり、京都の町/町屋を紹介するナレーションで始まり、そのまま京都の観光案内にもなりうるような映画である。映画の時間はほぼ一年、その間に行われる京都の大きな祭りが紹介され、四季折々の自然の風景が映される。そして、主人公が呉服問屋のお嬢様というのもいかにも日本文化の紹介という感じがして、外国向けの映画なのかという気もしてきてしまう。現にこの映画はアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたそうで、ということは外国(アメリカ)でも公開されたということなのだろう。
さて、そんな観光案内じみた物を含みながらも、物語はそれはそれで面白い。川端康成の原作だけに、時代の感じは昔っぽいけれど、設定は当時の現代。昭和30年代、京都の町はあのようなものだったのかというかんがいもある。物語も少々古臭い。まあ、この映画はそんな厳密な時代考証を求めているわけではないのでそれでいい。
途中クレーの絵などが出てきたり、会話の中に「日本の庭は抽象なんだ」というようなセリフが出てくるが、この映画自体が抽象と具象の間という雰囲気がある。特に前半は具体的な物語の進行の間に短い風景カットが挟まれ、単純な物語だけの印象とは異なった印象を与える。このときに重要なのは、光の使い方で、この映画は光を非常に我慢して使っている。光量を絞って、スポットなどを使い、暗い背景に像がぱっと浮き上がるような照明にする。祇園祭のシーンで千恵子の背景がぱっと暗転するシーンなど、陰影の加減が非常に美しい。ここに限らず、全体的に暗い映像が多く、それがどれも非常に美しい。
あとは、やはり岩下志麻ということで、一人二役の演じわけということですが、基本的にはメイクの違いだけで二人の区別がついているので特に演じ分ける必要はないのかもしれないけれど、なんとなく苗子の方が少し背が低く見えるのは、二人でいる時には苗子が節目がちで、千恵子が凛としているということがあるだろう。しかし、仕事着のときは苗子のほうが凛としているというのも面白い。
そして二人のシーンがあって、二人が同時に映るシーンがあったりするわけだけれど、そのシーンの作りもなかなかうまい。40年前の映画なので、特撮といえるようなものは特に使っていないのだろうけれど、かなり自然につながっている。
この辺りを見ても、この映画は撮影、照明、演出の職人たちのそれぞれが綿密な仕事をし、それを見事に重ね合わせたという職人映画という印象。これぞまさに日本映画。これを外国に売り出そうという姿勢は正解だったと思います。