8人の女たち
2003/3/6
8 Femmes
2002年,フランス,111分
- 監督
- フランソワ・オゾン
- 原作
- ロベルト・トーマ
- 脚本
- フランソワ・オゾン
- マリナ・ドゥ・ヴァン
- 撮影
- ジャンヌ・ラポワリー
- 音楽
- クリシュナ・レビ
- 出演
- ダニエル・ダリュー
- カトリーヌ・ドヌーヴ
- ヴィルジニー・ルドワイヤン
- エマニュエル・ベアール
- イザベル・ユペール
- リュディヴェーヌ・サニエ
1年ぶりに長女スゾンが実家に帰省してみると、新しいメイドのルイーズがいるほかは家に特に変わりはない。しかし、父マルセルはまだ寝ているらしくちっとも起きてこない。家族はほおっておいたが、しばらくしてルイーズが遅い朝食を持って部屋に行くと、マルセルが背中を刺されて死んでいるのを発見した。みな警察に助けを呼ぼうとするが、電話線は切断され、車の配線も切られていた…
フランスの鬼才フランソワ・オゾンが1950年代をイメージして一軒の家の中だけで展開されるサスペンス。オゾンなのでもちろん普通のサスペンスにはならず、奇妙な映画になっている。
1950年代のスタイルと8人の女優ということで、すっかり話題を集めヒットした映画ですが、内容はあまりヒットしそうなものではない。面白くないということではなくて、非常に奇妙である。その奇妙さが面白いという人も結構いるだろうし、私もその一人だけれど、その奇妙さを奇妙なまま受け入れない限り非常に理解しにくい映画になってしまう。だから、ハリウッド的なわかりやすさを求めてきた人には「ナンじゃこりゃ?」という映画になってしまうような気がします。
もっとも奇妙なのは、唐突に歌いだすシーンなわけですが、ミュージカルだと、さも歌なんかなかったかのように振舞われるのだけれど、この映画はみんなで振りつきで歌うということが物語の中に織り込まれていて、しかも普通のこととして受け入れられている。ナンなんだこの家族は!? ほとんど家に来たことがないはずの妹までその事情を了解しているのはなぜなんだ? という疑問が生じますが、その辺をそういうものだと受け入れることがこの映画を楽しむためには必要ということです。
そんな奇妙さもありますが、やはり50年代というなんとなく「かわいい」時代のスタイルを前面に押し出し、歌ものその50年代のフレンチ・ポップというのはいいですね。『アメリ』とちょっと傾向が似ているような気がします。不思議なものを撮ってきた監督が奇妙だけれどスタイルとして受け入れられやすいものを作った。そんな共通点があります。
さて、ヒットについての分析はこの辺にして、『アメリ』でもジュネはジュネだと思いましたが、この映画でもオゾンはオゾンだと思います。なんといっても平面的な背景に人がまっすぐにならび、カメラ目線。この映画にはありえない平面的な画面の構成。これを見ると、オゾンがここにいるという気がします。このオゾン特有の構図は映画の画面から奥行きを奪ってしまう。スクリーン上に描かれた絵のようにまったく平面な画面、もちろんそんな画面が使われるのは映画の一部なわけですが、一部がそのように平面になることで映画全体に奇妙な印象が生まれる。しかしその平面の場面を映画から「浮いた」場面にしないのはなかなか難しいことのように思える。立体的な場面との連続性を維持するには光や色を統一して、同じ「見た目」を維持しなければならないと思う。この映画ではそれが50年代のスタイルであり、木目の内装であった。そのような細かな計算をした上で作られる「奇妙さ」にオゾンの力量を感じる。
でも、サスペンスとしては今ひとつ。前半は緊張感もあるし、唐突に演じられる歌のシーンの面白さもあって、とてもよかったんだけれど、謎解きのほうはそほど複雑なものではなく、映画中盤にはなんとなくわかってくるし、歌のほうも全員が一度づつ歌うというシステムがわかってしまうと、面白さが少々奪われてしまう。その辺は「やはりエンターテインメントの作家というよりはアートの作家であるのかなぁ」と思ってしまいました。