アザー・ファイナル
2003/3/7
The Other Final: Bhutan v.s. Montserrat
2002年,日本=オランダ,77分
- 監督
- ヨハン・クレイマー
- 撮影
- レックス・ブランド
- 出演
- ディネッシュ・チェトリ
- オットリー・ラボーデ
2002年FIFAワールドカップ決勝戦が横浜で行われるその6時間前、ブータンでFIFAランキング202位のブータンと203位のモントセラトによる“もうひとつの決勝戦”が行われた。これを仕掛けたのは、ワールドカップ予選で敗退し、負けることについて考えるようになったというオランダ人。彼の働きかけによって実現したプロジェクトが実現するまでのおよそ6週間を追うドキュメンタリー。
アイデアはすばらしく、視点も面白い。この“もうひとつの決勝戦”はゲーム開催前にすでに話題となり、メディアの注目も集めたからイベントとしては成功だっただろう。しかし、映画のほうはといえば、映像に懲りすぎたせいか、臨場感を欠いて、ちょっと拍子抜け。
ランキングってものを見ると誰もが思う「最下位って誰?」という疑問。その疑問に答え、さらにその最下位決定戦を映画にするとなると、期待は嫌でも高まる。しかも、その企画をしたのが誰もが予想外に予選敗退をしたオランダ人。単なるサッカー映画であることを超え、哲学的なものをつかむんじゃないかとまで期待する。
そんな期待しすぎもあったのか、映画のほうはCMディレクターとして有名らしいヨハン・クレイマーの映像が懲りすぎ。主人公はサッカーとサッカー選手とブータンとモントセラトの人々であるはずが、映像が主人公になってしまう。手持ちの濫用はもとより、妙に加工した映像、やたらと登場するボールのイメージ、そして不似合いに誇張されたボールの弾む音、これらの内容よりも目立ってしまう映像の存在がこの映画の面白さをどんどんそいでいく。もっと素朴に、もっと単純に、人々を追っていたらどんなに面白い映画になっていたか。と思うと残念でならない。
しかし、この映画が哲学的になりそうな兆しもある。それはブータンの外務大臣の(だったと思う)おじさんの語りにある。彼の語りは非常に哲学的で、非常に示唆的だ。サッカーがサッカーの問題を超えて、政治の問題に、文化の問題になるという視点を持っていることはすばらしい。その彼に重要な役割を持たせたのはこの映画の演出の数少ない功績のひとつであるといえる。もうひとつ、よかったのはアーセナル入団を夢見るブータンのキャプテン。生真面目ながら、かなりいいキャラです。もっとクローズアップしてもよかったな。
などということで、すっかり映像に邪魔されてサッカーを楽しめなかったわけですが、そのような邪心を捨てれば面白い映画なのだと思います。