レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
2003/3/9
Leningrad Cowboys Go America
1989年,フィンランド=スウェーデン,78分
- 監督
- アキ・カウリスマキ
- 脚本
- ヤッケ・ヤルヴェンバー
- マト・ヴァルトネン
- アキ・カウリスマキ
- 撮影
- ティモ・サルミネン
- 音楽
- マウリ・スメン
- 出演
- マッティ・ペロンパー
- ザ・レニングラード・カウボーイズ
- サカリ・クオスマネン
ツンドラ地帯の集団農場で民俗音楽を演奏する異様に長いリーゼントと異様にとがった靴を履いた集団レニングラード・カウボーイズ。地元のプロモーターに「アメリカじゃなきゃダメだ」と言われたのを真に受けたマネージャーがメンバーを引き連れてアメリカに。そしてさらにいわれるがままにメキシコへと言うロード・ムーヴィー。
アメリカが舞台だけれど、カウリスマキが撮るとどうみても北欧みたいに見えてきて、本当にアメリカで撮ったのか疑問に思えてくる。シュールでクールな傑作コメディ。
アキ・カウリスマキの才能はもう疑いのないものになっているけれど、この映画こそその名を世界に広めた映画といえる。一般的なコメディの概念から大きくずれた、しかし笑えるコメディ。キャラクターの創出の仕方、笑いの作り方、ストーリー・テリングのうまさ、などすでに完成された感がある。長編デビュー作の『罪と罰』からそんなに年月が経っていないにもかかわらず、また違うジャンルですばらしい作品を撮ってしまう。このあたりは才能であるとしか言えない。 さて、映画のほうはかなり不思議な映画な感じがします。コメディだけどしんみり、でもおかしい。アメリカの風景がどう見てもアメリカに見えない。なぜアメリカに見えないのか、本当にアメリカで撮影していないからなのか、撮影の仕方なのか?
アメリカ南部で毛皮のコートを着ていると言うのも無理な話しだし、アメリカ南部なのに映像が妙に冷たい。でも街の人たちはちゃんと半そでを着ていたりするので、やはり本当にアメリカなのだろうか? でも、ニューヨークについたときにインサートされる夜景はどう見ても出来合いの映像をはめ込んだものだった。
この、映像のあまりのカウリスマキらしさというのは、アメリカにわたったヴェンダースの映像のドイツっぽさにも似ている。何を見ても相似を発見してしまうカウリスマキとヴェンダース。『パリ、テキサス』の砂漠の風景と、この映画の風景が私の頭の中で重なった。しかもこの映画はロード・ムーヴィー。どうしてもヴェンダースを思い出してしまう。
しかし、この映画はコメディ。ヴェンダースはコメディは撮っていないはず。そのあたりにカウリスマキの才能のすごさがある。しかもこのコメディは異様に面白い。マジック・リアリズム的な奇妙さが笑いにつながる。道路に並んで座って生の玉ねぎをかじるリーゼント軍団、カチコチから突然生き返る、変な大きな魚、などなどにやりという笑いが口元を離れない。そして、コメディのくせに異常にセリフが少ない。言葉ではなく、映像で笑わせる。そのシュールさで笑わせる。そのあたりがアメリカのコメディとは違うヨーロッパ的な笑い。それも北欧という、かなり笑いの文化も違いそうな(偏見)所の笑いという気がします。
もちろん音楽もいい。無表情に演奏するレニングラード・カウボーイズはおかしさを誘い、「下手くそ」と言われるけれど、かなり超絶技巧という感じ。ギターもチューバもアコーディオンも妙にうまい。それをR&Rにすると、変な味が出ていいのでした。レニングラード・カウボーイズ自体は本当にバンドとして活動してるバンドなので、うまいに決まってるんですが、それにしても面白い。