メルシィ!人生
2003/3/19
Le Placard
2000年,フランス,84分
- 監督
- フランシス・ヴェベール
- 脚本
- フランシス・ヴェベール
- 撮影
- ルチアーノ・ヴォリ
- 音楽
- ウラディミール・コスマ
- 出演
- ダニエル・オートゥイユ
- ジェラール・ドパルデュー
- ミシェル・オーモン
- ジャン・ロシュフォール
- ティエリー・レルミット
- ミシェル・ラロック
年に一度の会社の記念撮影でフレームの外に押し出されてしまった男ピニョン、その日トイレで人事部長が自分の首の話をしているのを耳にする。別れた妻と息子に、そのことで電話しても冷たい反応が返ってくるだけ、自殺しようとバルコニーに出たところを隣に引っ越してきた初老の男に止められる。そして、その男に言われるがままにゲイを装うことでクビを防ごうと画策するが…
フランスのおじさん役者のオールスターキャストで作る大人な感じのコメディ。監督は『奇人たちの晩餐会』のフランシス・ヴェベール。脚本家としても知られるだけにねられたシナリオが笑いを誘う。勤め先がコンドーム工場というのもひねりが効いていていい。
最近は、ハリウッドのおバカなコメディよりこんなおフランスなコメディがしっくりきます。自分が歳をとったということなのか、ハリウッドのコメディの質が落ちたのかはわかりませんが。
ハリウッドのコメディとヨーロッパのコメディというのは根本的に違うもののような気がします。ハリウッドのコメディというのはひとりのコメディアンありきで、ちょっと前ならジム・キャリー、もっと前ならエディ・マーフィーやマイケル・Jフォックス、あるいはスティーヴ・マーティンやらビル・マーレイ、今ならマーク・マイヤーズとかアダム・サンドラーやらベン・スティラーですか。そういったコメディアンのキャラクターから映画が構築されていく。これに対してヨーロッパのコメディというのはシナリオで笑わせる。コメディアンが出ているわけではなく、むしろ普通の映画と同じ俳優が出ている。ハリウッドでもそのような伝統も『トッツィー』のダスティン・ホフマンなんかがあり、最近はロバート・デ・ニーロがすごいですが、やはり量産されるのはコメディアンによるコメディ。
つまり、ハリウッドのコメディというのは個人の笑いで、それは攻撃的で爆発的。当たれば爆発的に面白いけれど、外れるとまったくもって面白くない。ヨーロッパのコメディというのは集団の笑いで、穏やかでじわじわ来るので、安心して見ることが出来る。
この映画も全体的に見ると別にたいして笑うところもなかったかなという気がするわけですが、見終わった後なんとなくすっきりするし、1つ1つの笑いもなんだか幸せになるような笑いなのです。同時期に公開された『ムッシュ・カステラ…』も似たような感じで、大人も人生に悩むし、おかしなことをするし、それで人生楽しいんだ!みたいなメッセージがいいのかもしれません。
大人なんだけど、やっていることは子供じみていて、しかし前向き。こういう映画を見ていると、文化というのはやはり若者ではなく大人が担うべきなのだという気がしてきます。新しい発想を生み出すのは若者だけれど、発想だけでは何にもならず、それを形にするのは大人だというような意味で、文化を若者に押し付けてしまうのは間違っている気がします。「若者文化」という名の下にさまざまなものがメディアによってもてはやされ、大人はそれを批判しつつ追っていく、そのような構造が日本やアメリカには見えます。本当は冷静に若者を見つめ、文化を作っていくべき大人のほうが浮き足立ってしまっている。そのような事態が見えてきます。そのような構造では、新たな流行は次々生み出されても、文化というものは生まれないのではないか、そんな危惧を感じます。
なぜか文化論になってしまいましたが、大人だってコメディを見るべきだ!いやむしろ、大人こそコメディを見るべきだ! と思います。