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マイノリティ・リポート

2003/7/23
Minority Report
2002年,アメリカ,145分

監督
スティーヴン・スピルバーグ
原作
フィリップ・K・ディック
脚本
ジョン・コーエン
スコット・フランク
撮影
ヤヌス・カミンスキー
音楽
ジョン・ウィリアムズ
出演
トム・クルーズ
コリン・ファレル
サマンサ・モートン
マックス・フォン・シドー
preview
 2054年、ワシントンD.C.。3人の予知能力者の能力を使うことによって殺人を予知し、それを未然に防ぐシステムを作り上げた犯罪予防局、そのチーフを勤めるジョン・アンダートンは仕事に没頭しているが、じつは6年前に息子を失った悲しみから立ち直れず、薬物にまで手を出していた。ある日、システムはそのジョンが36時間後に“リオ・クロウ”なる人物を殺すという予言を行った…
 近未来の管理社会を舞台にした、スピルバーグ久々のSF超大作。原作がフィリップ・K・ディックだけあって、その世界の構築の仕方綿密でリアリティを感じさせる。しかし物語りは単なるサスペンスに終始して、シック的世界観を生かしきれていないという感じも受ける。
review
 この映画を一言で言うならば、「近未来を舞台にしたサスペンス」ということになる。それぞれの個人が間然に管理されるようになった時代、その時代に起こりうるサスペンスを現代から想像して描く。そのような映画である。そんな映画をなぜスピルバーグは撮ったのか? ディックの原作とその世界観があれば、そこにうまい具合に沙うペンスのプロットを載せてしまえば出来上がり。けっしてスピルバーグが出なければならないような壮大な物語ではない。
 それはどういうことかといえば、ひとつにはこの映画が持つべきテーマとも言える「管理社会」というテーマがちっともクロースアップされないということ。網膜スキャンによって人々の行動がすべて管理され、街にある広告までもが通っている「私」にあわせて変化し、「私」のみに情報を発信するような社会。そのような社会の脅威こそがこの物語が描きたいものであるはずだ。しかし、この映画のジョンをめぐる事件はそんな「管理社会」とは無関係な事件として起こってしまう。もちろん細部ではその管理社会がもつ一望監視的な機能(パノプティコン)が物語を進める鍵にはなるけれど、全体がその管理社会によってもたらせれる必然的な結果というわけではない。
 それは、この犯罪予防システムが社会によって作られたネットワーク的なシステムとしてではなく、ひとり(あるいは3人)の英雄あるいはスターによって作られたトップダウン的なシステムだからだ。それは社会と切り離されたある種の独裁、「科学」という名を関せられたひとつの権力による独裁を意味しているのだ。本当の管理社会の恐怖とはそれがわれわれの身近にある人々のネットワークによって構築されるところにあるはずだ。
 いまだって、個人や小規模な商店街にある監視カメラの映像が簡単に警察の手に渡り、それによって犯人が逮捕されたりする。そのこと自体はいいことのように見えるけれど、そこには犯人以外の人々の行動までも記録され、管理されてしまっていることを意味する。このような監視カメラが全国的にネットワーク化されてしまえば、「私」がどこにいるのかを絶えず把握しておくことが(事実上)可能になってしまう。
 この映画で描かれるべきであったのはそのような「恐怖」であり、おそらく原作ではそこが描かれていたと(推測に過ぎないが)思う。

 ここからは邪推に過ぎないが、映画がこのような形になったのは、そのような管理社会にアメリカが向おうとしているからのように思えてしまう。それはスピルヴァーグが積極的に製作宣伝をしているという意味ではないが、その製作会社やらなんやらは政府やら企業やらと結びついているわけで、それはつまりそのような政府やら企業やらの不利益になるような映画は作れないということを意味するからだ。しかも、この映画は序盤にアメリカ合衆国を賛美というか、意識させるようなものがちりばめられている(リンカーンの写真、国歌の暗誦など)。
 なので、この映画は観客に管理社会への恐怖を植え付けないようにする。システムに欠陥があるのではなく人がミスをすると映画の中で繰り返し言われているように、政府やシステムが悪いのではなく、「人」が悪いのだということにして、システムの問題はまったく棚上げにしてしまう。だから、これは単純なサスペンスに堕してしまっているのだ。本来SFは未来社会の問題化を可能にするものであり、われわれに未来への暗い見通しを与え、それに対して身構える準備をさせてくれるものであるはずだが、この映画にはSFのそんな機能はかけらもないのだ。
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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