愛してる、愛してない…
2003/8/19
A La Folie... Pas Du Tout
2002年,フランス,96分
- 監督
- レティシア・コロンバニ
- 脚本
- レティシア・コロンバニ
- 撮影
- ピエール・エイム
- 音楽
- ジェローム・クーレ
- 出演
- オドレイ・トトゥ
- サミュエル・ル・ビアン
- イザベル・カレ
- クレマン・シボニー
- ソフィー・ギルマン
フランスはボルドーで美術学校に通うアンジェリクは恋人の心臓外科医ロイックの誕生日にバラを一輪贈った。その日、賞をもらえることも決まったアンジェリックは上機嫌、あとはロイックが奥さんと別れてくれれば万事うまくいくはずだった。アンジェリクは1年間アメリカに行くという家族に留守番を任され、大きな家でひとり制作に没頭し、ロイックとのデートに明け暮れていたのだが…
『アメリ』のオドレイ・トトゥ主演のロマンティックストーリー、かと思いきや、中盤から映画は意表をつく展開に。なかなか練られた脚本が面白い作品。なるべく内容は知らずに見たほうが面白い。「えー、『アメリ』の二番煎じかよ」と思っている人にこそ楽しめるはず。
*なるべく予備知識がないほうがいい映画なので、これから見るという人は読まないほうがいいかもしれません。
基本的には『アメリ』人気をあて込んで、オドレイ・トトゥの人気で客を呼ぼうという発想で、映画の雰囲気もなんだか似た感じという印象を与える。しかし、実はそんな映画ではなくって、見に来た人をびっくりさせる。この作戦はとても面白いけれど、『アメリ』を見に来た人には期待はずれになってしまうし、拒否反応を示す人すらいるかも知れない。逆に「二番煎じかよ」と思ってしまった人は見に行かないということで、興行戦略的には非常に難しい映画になってしまった。
しかし、私はこのやり方は非常に面白いと思うし、映画も面白い。最後まで見て、全体を振り返ってみると脚本がかなりよく練られていて、いろいろ思い出してニヤニヤしてしまう感じである。
<ここからはとってもネタばれしていきます>
この視点の切り替えという方法自体はそれほど珍しいやり方ではなく、視点が変わることによって、物語ががらりと変わるというのは映画的な手法としてはかなり古典的なものだと思う。
なので、ここまでいろいろ説明しなくてもわかるんじゃないかとこの映画を見て思った。つまり、視点が転換したあとの説明的な部分が少々くどい。視点が切り変わったあと、物語はサスペンスフルになり、スピードがどんどん上がっていく中で、この説明のくどさがたまに引っかかりになってしまう。私の好みとしては最後に向かうにつれどんどんスピードアップして飛ばして飛ばして行ってくれたほうが好みの映画になったと思う。
そのあたりに少々不満はあるものの、全体的にはとてもいい映画で、最近のフランス映画らしいフランス映画という感じがする。脚本・監督のレティシア・コロンバニはこの作品が長編デビュー作ということで、なかなかの才能があるように見える。ただ、ハリウッドがリメイク権を買ったことからもわかるけれど、この映画はかなりハリウッド的で、この監督もハリウッドに渡って、ハリウッド的なものを作るようになってしまうのではないかという危惧はある。フランスでは新しい才能が結構生まれているような気がするけれど、最近はその才能がどんどんハリウッドに吸収されていき、フランス映画(→ヨーロッパ映画)というものが立ち行かなくなって来ているという印象がある。
『アメリ』はフランスらしい映画だった、ハリウッドに渡って失敗(?)したジュネ監督が原点回帰ではないけれど、子供時代のフランスに帰るかのように撮った映画、そこにはフランス(ヨーロッパ)らしい物事の捉え方が表れていたような気がする。あそこに現れる風景は幻想/夢想と捉えられがちだけれど、あれがあくまで現実の一部なのだということが非常にヨーロッパ的なのだと私は思う。それに対して、この映画の幻想/夢想の捉え方は合理的だ。それはヨーロッパ的というよりはアメリカ的な捉え方のような気がする。それが悪いというのではなく、根本的に物事の捉え方が違うということである。
この映画はとても面白い、けれど面白いからこそフランスからフランス映画がなくなっていってしまう。そんな危惧を感じさせる作品でもある。おおらかに現実を捉え、それを映像にしてきたヨーロッパは現実を合理的に捉えなおすアメリカに圧倒的に押されている。それは由々しき事態なのではないか。それはアメリカ映画が嫌いだからではなく、ことなる描き方があってこそ表現が豊かになっていくと思うからだ。そしてそのヨーロッパ対アメリカの構図が、ヨーロッパの内部にも確実に存在しているということをこの映画を見て感じてしまった。
<戻ります>
ハリウッド映画っぽかろうとフランス映画っぽかろうと、とりあえず面白ければいいのは確かなので、とりあえずこの映画を見ておいて、この監督とオドレイ・トトゥがどうなるのか、それに注目してみるのも面白いのではないかと思います。