更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

あなただけ今晩は

2003/8/20
Irma La Douce
1963年,アメリカ,146分

監督
ビリー・ワイルダー
脚本
ビリー・ワイルダー
I・A・L・ダイアモンド
撮影
ジョセフ・ラシェル
音楽
アンドレ・プレヴィン
出演
ジャック・レモン
シャーリー・マクレーン
ルー・ジャコビ
preview
 パリの娼婦街、そこにやってきた新任の警官ネスターは娼婦やヒモと警官が持ちつ持たれつの関係であることを知らず、バカ正直に娼婦たちを逮捕し、たまたまそのとき娼婦とホテルにいた警部に呼び出され、クビにされてしまう。途方にくれた彼は、娼婦街にやってきて、彼に優しくしてくれた娼婦イルマに再会する。
 ワイルダーが『アパートの鍵貸します』のスタッフ・キャストを再び集めて製作したラブ・コメディ。元はミュージカルで、映画でも時々歌のシーンが登場する。ジャック・レモンとシャーリー・マクレーンのコンビネーションも最高で、掛け値なしに楽しめる作品。
review
 何でしょう、最初から最後まで隙がない感じです。中盤少し展開がじれったく感じるところがあった以外はまったくもって完璧というか、文句をつけるところがない作品だと思います。べつに文句をつける必要もないんですが、これだけ面白いとなぜだか逆に文句の付け所を探したくなってしまいます(しかし見つからない)。
 ということで、最初のシーン(タイトルクレジット)から流麗なカメラワークで舞台設定をポンと提示し(しかも娼婦街はすべてセットだというからさらに驚き)、次に突然ドキュメンタリー風の映像で市場の喧騒が映し出され、それと娼婦街とが見事に対比される。まさか市場はオールセットではないと思うので、この最初の5分だけで感嘆に値してしまう。
 そして登場するジャック・レモンがまた見事。喜劇役者とはかくありなん、という表情と立ち居振る舞いでスクリーンに登場、ちょいちょいと笑いを振りまき映画にテンポを与えていく。シャーリー・マクレーンももちろんいいです。今はなんだかわからない人になってしまっていますが、この当時は、美人ではないけれどなぜか魅力を発散する可愛さがあって、この映画はまさにその魅力全開という感じ。

 などなどいいところがたくさんあるわけですが、なんといってもシナリオが非常にいいですね。物語の練り方もすごく面白いのですが、それにとどまらず、一つ一つのシーンまでじっくりと練られている。たとえば小道具の使い方、バーのソーダの入れ物(名前がわかりませんが)で倒れた人の顔にソーダをかける、という一つの小道具と一つの動作が反復されて、それが後々効いてくる。そして、X卿というのもそもそも小道具の塊で、彼の傘や眼帯が映画全体にとって非常に重要になってくる。
 そのあたりのプロットに絡んでくる複線というか、小さな事々を練っていって、一つのシナリオに仕上げていくというその作業にワイルダーの天才と熟練を感じるわけです。
 そして、そのために重要になってくるのがバーのマスターなわけで、この人物こそが実はこの映画を支える最重要人物。主役の2人が演じる陰で2人を動かす狂言回しとなっています。彼は映画の中のシナリオライターであり、彼がシナリオライターであるからこそこの映画が完璧になっているんだと思います。
 それはなぜかといえば、彼が狂言回しではなくてただのバーのマスターだったなら、この映画全体が一つの芝居になる。それはつまり、映画の外にシナリオライターの存在が感じられてしまうということ。しかし、狂言回しが存在することによって芝居は映画の中に封入され、ひとつのリアルとなる。
 つまり、主役の2人がいて、それを動かすマスターがいる。これが一つの芝居として成立しているということは、それを写し撮るカメラはその芝居からは離れた存在になる。そこにそれを見るわれわれ観客が加えられる。われわれが見るのはカメラによって切り取られた虚構、それを意識するとそこに映っている内容は反転してリアルなものと感じられる。
 言っていることがよくわからないと思いますが、私には何かがわかったような気がしました。中盤を中だるみと感じてしまうのも、中盤のネスターとイルマとX卿の関係性がちょっと嘘っぽいものに感じられてしまったからだと思います。そこでは狂言回しとしてのマスターが後退し、主役2人の芝居が生のまま映画に現れてしまっている。主役2人の行動はマスターによって動かされる完全な芝居にしてしまったほうが逆にリアルになるという不思議な現象がおきるような気がします。
 マスターの「それは別の話だ」というセリフも彼がシナリオライターであることを強化する一つの小道具になっている。映画を見終わって、振り返ってみるとそこにワイルダーのシナリオライターとしてのすごさを感じてしまう。
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ60~80年代

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ