薄桜記
2003/9/1
1959年,日本,110分
- 監督
- 森一生
- 原作
- 五味康祐
- 脚本
- 伊藤大輔
- 撮影
- 本田省三
- 音楽
- 斎藤一郎
- 出演
- 市川雷蔵
- 勝新太郎
- 真城千都世
有名な高田の馬場の決闘、伯父の助太刀に向う中村安兵衛とすれ違った旗本丹下典膳は安兵衛の襷がほどけているのに気づき、注意しようと決闘の場に向う。しかし、相手が同門の知心流の武士であることを知り、その場を立ち去った。だが、後日同士を見捨てたことをとがめられた典膳は知心流を破門される。一方決闘で名を上げた安兵衛はあちこちから任官の誘いがあるが、安兵衛の想いは上杉家の娘千春にあった…
「忠臣蔵」のサイドストーリーとして書かれた五味康祐の小説の映画化。有名な高田の馬場の決闘と四十七士の討ち入りのあいだの中村安兵衛を描くという面白い作品。同時に徹底的にメロドラマでもあり、時代劇の面白さをすべて詰め込んだという感じ。
この映画は時代劇としての面白さがすべて詰まっている。それはチャンバラ、メロドラマ、義理人情、日本的な美、そのようなもの。それらが一つのドラマの中に見事に詰まっていながら、物語としても非常に面白い。しかも、「忠臣蔵」の誰でも知っている物語のサイドストーリーとして語られることによって、その物語自体が身近なものと感じられるという仕掛けも準備されている。堀部安兵衛といえば、赤穂浪士の中心人物の一人、その彼が物語の中心となることはそれだけで映画への興味を増す。
そしてさらに、映画の主人公はその堀部安兵衛ではなく、架空の人物である丹下典膳なる人物、名前からして丹下左膳を思い出させるこの人物がものすごくかっこいい。当時の大映の看板スターはやはり勝新ではなく雷蔵だから、雷蔵はとことんかっこいい役で登場するということなのだろう。そしてその雷蔵が演じるメロドラマ。このこってこてのメロドラマも時代劇の魅力の一つである。
そして、この映画は主人公の3人(+じい)だけが完全なる善であり、他はほとんど悪であるという、善悪が非常にはっきりとした構造をとっているのも興味深い。典膳と安兵衛の関係は敵になったり、味方になったり、ころころと変わるけれど、それとはかかわりなく、彼らは絶対的に善であるのだ。そのすっきりとした物語構造も時代劇らしくていい。
映像のほうも、リアリティには欠けるけれど、美しさはそこここに湛えている。とくに、俯瞰で捉えたロングショットはとても美しい。最もわかりやすいのはラストの立会いのシーンだけれど、そのまえにも、典膳と千春とじいが3人で微妙な距離を保ちながら、階段を下りていくシーンなんかがとても美しい。宮川一夫は色使いで美しさを演出していましたが、この本田省三はスペースの使い方によって美しさを生み出しているという感じです。
と、時代劇の面白さすし詰めという感じで、それはとても面白いわけですが、この映画はそれにとどまらず、どこかモダンなところも感じさせる映画で、物語の展開なんかも、結構複雑に練られていて、起承転結の単純な時代劇とはちょっと違うという感じもしました。
ので、必ずしも時代劇ファンでなくても、昭和30年代の日本映画黄金期の映画を楽しむという感じで楽しく見ることができる作品。雷蔵ファンはもちろん勝新ファンも必見。