熱砂の舞
2003/9/13
The Son of the Sheik
1926年,アメリカ,74分
- 監督
- ジョージ・フィッツモーリス
- 脚本
- E・M・ハル
- フランセス・マリオン
- 撮影
- ジョージ・バーンズ
- 出演
- ルドルフ・ヴァレンチノ
- ヴィルマ・バンキー
- モンターギュ・ラヴ
- ジョージ・フォーセット
悪行を行う旅芸人一座の花ヤスミンは初めての恋をした。その相手は砂漠の王者シークの息子アーメッド、夜街外れの廃墟で会うことを約束し、会うことができたのだが、そこにヤスミンに横恋慕する旅芸人一座の悪党ガーバーが現れ、アーメッドを拉致する。アーメッドは部下によって救われるが、ガーバーにヤスミンも策略に加わっていたと吹き込まれ、ヤスミンへの憎しみを募らせるのだった…
31歳にして夭逝したサイレント時代の伝説的な美男子ルドルフ・ヴァレンチノの遺作。1921年に作られた『シーク』の続編という形をとる。
サイレント映画というのは純粋な視覚的な楽しみである。だから、その楽しませ方もトーキーと比べると限られてくる。動きで笑わせるコメディ、文字を駆使して絵本のように物語を語るドラマ、チャンバラを代表とするアクション、見ているだけで楽しめる自然や動物や美男美女、といったところが代表的なところ。
この映画は基本的にはルドルフ・ヴァレンチノというスターを見せる映画。名前からしてイタリア人なので、アメリカ人にしてみればエキゾチックな顔立ちで、それが砂漠の王子という設定にはまる。だからこそ同じ設定で2本も映画が作られたわけだ。なので、日本のスター映画のようにこのヒト中心で映画が展開していく。他の人たちはアラブ人らしいむさっ苦しい顔立ちをさせ、ヴァレンチノがひときわ目立つようになっている。これはある種のステレオタイプではあるけれど、視覚的に瞬時に捉えられるようにするためにはこのステレオタイプというのがとても役立つ。今から見ればこのようなステレオタイプの繰り返しが人種的偏見を生む理由の一つになったとも考えられるが、それを理由にしてこの映画を批判するのはお門違いというもの。われわれがそのような人種偏見にとらわれないように気をつけながら、映画を見ればいいだけだ。
で、ヴァレンチノだが、このような美少年顔がサイレンと時代のアメリカでは受けたようだ。白黒なので、顔の濃淡をはっきりさせるために濃いアイラインなんかが入って、大体に多様な顔になってしまうのだけれど、とにかくこんな顔が受けた。セッシュー・ハヤカワにもどことなく似ている。ということだが、実はヴァレンチノはハヤカワの推薦によって『シーク』の主役に抜擢されたらしい。そんな彼だったが31歳で急死し、この映画が遺作となってしまった。
彼やハヤカワのようなエキゾチックな美少年が美男子とされた時代であったということは時代性とあわせてみると面白いのかもしれないので、頭にとどめておくことにします。
さて、映画のほうはそんなスター☆ヴァレンチノの映画なので、物語などはそうたいしたものではないのですが、なかなかよく出来た話で、サイレントで74分、まったく退屈せずに見ることができます。登場人物を絞って、展開をわかりやすくし、それぞれの人物をステレオタイプ化して視覚的に区別しやすくしたのがよかったのだと思います(アーメッドの腹心とガーバーが同じようなアラブ系の設定で少々わかりにくかったですが)。相手役の女優さんも、これまたこの時代の美女の典型のような顔立ちと髪型とメイクで「まさに20年代の映画!」という感じがしました。