人生は、時々晴れ
2003/10/2
All or Nothing
2002年,イギリス=フランス,128分
- 監督
- マイク・リー
- 脚本
- マイク・リー
- 撮影
- ディック・ポープ
- 音楽
- アンドリュー・ディクソン
- 出演
- ティモシー・スポール
- レスリー・マンヴィル
- アリソン・ガーランド
- ジェームズ・コーデン
- ルース・シーン
- ヘレン・コーカー
ロンドンでタクシー運転手をやっているフィルとスーパーのレジ係をやっているペニーの夫妻には老人ホームで清掃の仕事をしているレイチェルとただ家でブラブラしているだけのローリーの2人の子供がいた。しかし家族関係はあまりうまく言っておらず、フィルはどこかで疎外感を感じていた。同じ団地に住むフィルの同僚ロンやペニーの同僚モーリンもそれぞれに問題を抱え、つらい生活を送っていた。そんなつらくも何気ない日常に一つの事件が起きる…
『秘密と嘘』のマイク・リー監督がまたも「家族」をテーマとして撮り上げた感動のドラマ。盛り上がりも明るさもないが、日常とはそんなものかもしれない。というリアルな話。
「日常とはかくあるもの」と監督はこの映画でいいたかったのかもしれない。映画にありがちな派手さをかき、2時間という時間で表現すべき最小限のことだけを表現する。そこには多くの「間」があり、それはある種の味わいともなるし、見ている人に自分自身を振り返って考える時間を与える。
ただそこには「映画を見ている」という安心感はない。何かが起こりそうな張り詰めた緊張感が持続し、しかし何も起こらない。そのようなシーンの繰り返しによって作られた映画この映画にはあまりにたくさんの空白があり、見る側がそれを埋めていかない限り、一つの映画として成り立ち得ないようなものですらある。映画というのはそもそもそういうもの(観客が映画の空白を生めることによって成り立つもの)ではあるけれど、この映画はそれを最大限まで押し広げたものになっている。非常に小さな物語であるにもかかわらず、それも非常に少ししか語らない。
これはあまりに饒舌すぎて観客に何もさせないハリウッドの大スペクタクル映画とはまったく対照にある映画ともいえるわけだが、この映画で感動できる人というのはかなり限られてくるだろう。
このようなスタンスは非常に面白いもので、試みるのはすごいことだと思うが、映画にうつる人たちのギクシャクした関係性や、そこから伝わってくる嫌な空気というものを受け入れるのは難しい。それは確かに日常によくあることであり、考えなくてはならないことではあるが、このように「考えろ考えろ」といわれるのもどうも気に入らないというか、非常に居心地が悪い。
そんな中で、フランス人の女性がフィルのタクシーに乗るシーンはかなりいいシーンだと思った。物語の上でも、それまで何も考えていなかったフィルがいろいろなことに思いを至らせるというシーンになるわけで、何がなにやらわからないままとにかく考えさせられていた観客も、このシーンで少しわけがわかってくるということになるのだろうと思う。だからこのシーンは面白いと思える。
がしかし、やはりなんとなく映画として大人すぎるというか、いろいろと継ぎ足しながら見なくてはならないのは疲れるし、そのように疲れた結果、ものすごい感動があるわけでもないというのは、あまりに日常そのまますぎて、逆にリアルさからはかけ離れてしまう気がする。
ハリウッド大スペクタクル映画の壮大なファンタジーも根本的にリアルさからはかけ離れているけれど、このように日常にあまりに近く、見ているものも日常そのものにしか感じられないというのもどこか映画的なリアルさを失っているような気がする。このふたつは両極端にいながらも、結果的にはともにどこか観客を寄せ付けないようなそんな映画になってしまっているのではないかと思った。