刑務所の中
2003/10/17
2002年,日本,93分
- 監督
- 崔洋一
- 原作
- 花輪和一
- 脚本
- 崔洋一
- 鄭義信
- 中村義洋
- 撮影
- 浜田毅
- 音楽
- 佐々木次彦
- 出演
- 山崎努
- 香川照之
- 田口トモロヲ
- 松重豊
- 村松利史
- 大杉漣
- 椎名桔平
- 窪塚洋介
仲間とモデルガンによる戦争ゲームに興じていた花輪は、銃砲刀剣類等不法所持、火薬取締法違反で懲役3年の刑を受け、日高刑務所に受刑者番号222番として収監される。しかし、刑務所はさまざまな規制さえ気にしなければそれほどすごしにくい場所ではなく、同房となった4人の受刑者と口に上る話題といえば食べ物のことばかりという穏やかな生活を続けていた。
花輪和一が自らの刑務所体験を綴った大ヒット同名漫画を原作に、崔洋一が監督して映画化。個性的な俳優陣が笑いを振りまき、刑務所映画なのに穏やかで笑える映画になっている。
この映画は面白い。それは多分原作が面白いからで、それは多分原作者の体験がわれわれにとって珍しく面白いからだろう。しかしもちろん、それをうまく映像化した監督の手腕も優れたものであり、閉鎖環境で、少ない登場人物という難しい舞台でリアルに受刑者たちを演じた俳優たちも優れているのだろう。ということで、映画としてはお茶の間向きという感じ。うまくまとまっていて、まさに漫画的な映画である。
などと書いてみたが、この映画はそんなに面白くないのかもしれない。あまりに普通すぎるのだ。刑務所があまりに普通すぎるというのはどうなのか。今のわれわれの生活からすると不自由で食べ物もまずく、人には頭ごなしに指図されるし、かなり非文明的である。しかし、いわゆる刑務所-臭い飯というイメージからするとこの映画の刑務所というのは清潔だし、ある程度の自由も許されている。制限はあるがテレビは見られるし、野球も出来る。時には映画も見られるし、甘いものだって食べられる。そんな生活が果たして「懲役」といえるのかという疑問は頭をもたげる。
それに憤るべきなのかとも思うが、犯罪を犯した人が本当に苦しむのは刑務所にいるときよりもそこを出たあとなのかもしれないとも思う。「前科者」という烙印は日本の社会ではあまりに重い。他の国がどうなのかは知らないが、日本ではその後を生きていくのはかなり苦しいだろう。刑務所で受けた職業訓練が役に立つとはとても思えないし、再教育プログラムが果たして機能しているのかわからない。犯罪を犯す前は立派なサラリーマンだったりする人が、「前科者」になることで失業者になり、あるいはホームレスにさえなってしまうかもしれない。
そんな出所後の環境を考えると刑務所の中では(重罪犯でなければだが)これくらいの自由が許されていいのかもしれない。
この映画に登場する受刑者たちは、非常に子供じみている。もともと子供じみていたから、犯罪を犯してしまったのか、それとも刑務所という環境が人間を子供にしてしまうのかはわからないが、彼らはまるで子供である。日本の刑務所という制度は今までも人生を強制的に消し去り、いったん人を子供に戻し、未成熟なオトナとして社会に送り出す制度なのかもしれない。この映画の原作者が収監前に何をしていたかはわからないが、いったん子供に帰り、あらたに漫画家として世に出た(捕まる前から漫画家さんだったそうです)。彼は成功したからいいけれど、彼の後ろには再び成熟する大人になることがかなわず、朽ちていった人たちがいるのだろうと思う。
刑務所っていったいなに?