UNloved
2003/11/14
2002年,日本,117分
- 監督
- 万田邦敏
- 脚本
- 万田珠実
- 万田邦敏
- 撮影
- 芦澤明子
- 音楽
- 川井憲次
- 出演
- 森口瑤子
- 仲村トオル
- 松岡俊介
市役所に勤める影山光子は仕事はできるのに、30過ぎになっても昇進試験を受けようとしない。そんな光子は取りまとめた書類を取引先の社長に勝野にほめられる。離婚したばかりの勝野は光子を気に入り、ある日、光子をお茶に誘う。光子はそれを受け、勝野は光子に急速に魅かれていく。光子も勝野の気持ちにこたえ、取引が終わろうとする頃、勝野を自宅に招き2人は結ばれる。2人の関係は順調なように見えたが、2人はどこかちぐはぐだった…
万田邦敏監督が『レムナント6』以来6年ぶり、満を持して世に送り出した劇場用長編デビュー作。痛いほどに見るものの心をえぐる物語と、その緊迫感を盛り上げるとげとげしい映像がすばらしい。
この映画は見るものの心をえぐるようだ。人間の暗部をえぐり、見るものは自分の中にある暗い部分を抉り出され、目の前に突きつけられる。こんな映画は見たくない。この映画を見ているとそんな風に思う。しかし、「見たくない」と思わせるような強烈な映画が今の映画界にどれほどあるだろうか。この映画の強烈さはそのように「見たくない」と観客に思わせるところに現われている。
登場人物はわずかに3人。主役は言葉。ぶつけ合う言葉がすべてを物語る。もちろん映画であるから、映像あってのものだが、映像はその言葉の意味を十分に伝えるための黒子であり、言葉のすべてを観客が理解できるようなゆっくりとしたペースで映画が進むとき、観客の目に退屈に映らないようにする変化する舞台装置である。それはつまり非常に周到に計算された映像作りだということでもある。すべての効果を考えつくし、不必要なところを徹底的にそぎ落とす。言葉を伝え、観客に考える時間を十分に与える。その目的のためにすべての要素が組み立てられる。セリフが棒読みなのも、ドラマティックな抑揚をつけてしまうと、映画にスピードが生まれ、観客に考えさせることができないからだ。
そのようにして紡ぎだされた言葉。一番印象的なのは光子が何度も発する「似合わない」という言葉だ。「あなたには似合わない」「私には似合わない」そのようにいう言葉。勝野が選んだ服をめぐって、光子は「私には似合わない」といい、勝野は「似合っていたのに」という。その時ふたりのあいだでは言葉の意味のずれが生じている。勝野が言うのが単純に見た目が似合っているということであるのに対して、光子が言うのはその服が抱える生活スタイルや考え方が自分に似合わないということであるのだ。その服が似合うということは、自分をその服を着るような生活スタイルに押し込むということだ。そのような生活スタイルが私には似合わない。だからその服も自分には似合わない。そのように言っている光子の考えを勝野はまったく理解できない。そして人は傷つけあうのだ。言葉は人をひどく傷つける。
光子は下川と出会う。コンビニで「お金貸してくれない」といった言葉。その言葉が光子には非常に重要だった。自分が発した言葉が翻って自分に何かを気づかせることがある。そこからさきの物語については語らないが、とにかく言葉が重要なのだ。言葉は人を傷つけもし、幸せにもし、自分を貶めもし、悩ませもする。最後の最後にやってくるのも言葉だ。聞いた瞬間はクエスチョンマークが付くような言葉。最後に発せられるその言葉を吟味したとき、この映画が真に語ろうとしていることが見えてくる。
そして、それは一つの答えではない。見る人それぞれが違う結論に達するのかもしれない。
「UNloved」というタイトル。それも一つの言葉である。見る人はその謎を解こうとする。愛されていないのは誰か、愛されているのは誰か。しかし、愛されたいと求めることが愛することなのだろうか? かたくなに愛されようとはしないことが愛することなのだろうか? ちょっと書きすぎてしまいました。「UNloved」というタイトルで、そのタイトルの意味することはずっと映画に付きまとうけれど、結局それが意味するところは言葉では言い表せないのかもしれない。 どのような言葉があなたの心に残りましたか? その心に残った言葉を反芻すること、それがこの映画に答えることなのではないか。