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菊豆

2003/11/22
菊豆
1990年,中国=日本,94分

監督
チャン・イーモウ(張藝謀)
ヤン・ファンリャン(楊鳳良)
原作
リウ・ホン(劉恒)
脚本
リウ・ホン(劉恒)
撮影
クー・チャンウェイ(顧長衛)
ヤン・ルン(楊輪)
音楽
チャオ・ジーピン(趙季平)
出演
コン・リー(鞏俐)
リー・パオティエン(李保田)
リ・ウェヤ(李緯)
チェン・チェン(鄭建)
preview
 染物屋の楊金山は跡取りを生んでもらうため大金を積んで菊豆を嫁にもらう。不能の金山は日々菊豆を折檻し、虐げていた。そんな金山の家に暮らす甥の天青が菊豆の入浴姿をのぞき見ていることを知った菊豆は徐々に天青に惹かれていき、金山が留守にしている間についに二人は結ばれる。そして菊豆には子供ができるが、それは金山の子供ではなかった…
 チャン・イーモウの監督第3作。カメラマン出身であるだけに映像へのこだわりが強く、この作品でも染物屋に舞台を設定したことで、色鮮やかな布が印象的な効果を生む。
review
 映像は非常に鮮やかである。染物の色、染め液の色、そして映画にはずっと色が付きまとう。染物屋であるということで観客は色に敏感にならざるを得ない。それぞれの登場人物が何色の着物を着ているのか、ということが始終頭に上り、そのことで映像への意識が高まる。例えば、楊家の長老たちが集まる会合では全員が黒い服を着ている。それに意味があるとは思えないが、色が生むイメージが観客の感じ方を左右することは確かだ。その意味でチャン・イーモウの映像の作り方は巧妙だといえるだろう。しかし、映画全体としてどれほどの効果を生んでいるのかという点はよくわからない。確かに映像は美しいが、それはそれだけで、物語は物語で別にあるという気がしてしまうのだ。

 その物語のほうは“業(ごう)”の物語であると思う。最初は金で買われた不遇の女と、純粋な義理の甥との純愛の物語化と思わせるし、愛の物語であることは最後まで変わらないのだけれど、それが物語の中心とはならない。それはつまり、菊豆と天青という二人の感情がプロットを引っ張るわけではないということである。ふたりの関係が物語の中心となっているにもかかわらず、プロットを引っ張っていくのは“業”なのである。
 それは、菊豆と天青が関係を結んだことが業として身に降りかかってくる。ということだが、これは非常に中国的で東洋的な因果応報の考え方であるといえる。そこには“家”の問題なども絡んできて、さらに息子が生まれることで複雑さを増していく。その結果物語は愛の物語から徐々に離れていく。それ自体が悪いことではないのだが、物語としてはなかなかわかりにくく、どう受けともていいのかわからない。
 それは何か欧米の映画と中国の映画の根本的な違いなのかもしれないとも思う。愛なら愛の物語として、1つのプロットが進行して行くというのではなく、そこに否応なく“業”という問題が絡んできてしまう。そして物語は混ざり、入り組み、時には入れ替わる。欧米の映画は1つのプロットを深め、複雑な要素を織り込んでいくことで物語を練っていく。どちらが面白いと思うかは好みの問題もあれば慣れの問題もある。ただ違うというだけの話だが、なかなか面白いと思う。

 話は“業”のほうに戻るのだが、これはとても興味深い。“業”などというと、不倫が文字道理「不倫」であるからその因果応報で身に悪いことが降りかかるということであるかのように思われるかもしれないが、話はそんなに単純ではない。“業”とはそんな単純な因果律に取り込まれないさまざまな力が働いた因果の話で、結局のところ教訓話になるという結末が用意されているわけではないところがいい。“業”によって不幸な結果を招いても、それはそれで仕方のないことであり、避けられないことなのだ。それが自分の感情/情欲の発露の結果であるならば仕方がない。そんな諦めが働くところに、かろうじてこの映画の“愛”と“業”という2つの物語が絡み合う。
 そう考えると、この映画は「面白い映画」とはいいがたいが、見ごたえのある映画であり、チャン・イーモウが最近撮ってしまっている安っぽいお涙頂戴映画と比べると格段に「いい映画」といえるのではないかと思う。
Database参照
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国別・年順: 中国

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