オー!
2003/12/18
Ho !
1968年,フランス,107分
- 監督
- ロベール・アンリコ
- 原作
- ジョゼ・ジョヴァンニ
- 脚本
- ピエール・ペリグリ
- リュシエンヌ・アモン
- 撮影
- ジャン・ボフェティ
- 音楽
- フランソワ・ド・ルーベ
- 出演
- ジャン=ポール・ベルモンド
- ジョアンナ・シムカス
- ポール・クローシュ
- シドニー・チャップリン
元レイサーのオーは5年前の事故でライセンスを剥奪され、いまは強盗王カンテールの運転手役をしていた。今回もシュワルツ兄弟と組んで見事強盗に成功。オーも分け前をもらって喜んでいたが、その直後カンテールが銃を暴発させて死んでしまう。オーはシュワルツ兄弟と次の強盗をしようと車を盗もうとしたところで捕まってしまうが…
クライム・サスペンスの巨匠ジョゼ・ジョヴァンニ原作のアクション映画。映画は60年代の雰囲気に満たされ、その中で躍動するベルモンドがなんとも言えずいい。
ストーリーもすっきりとしていて、クライム・アクションの王道といった感じ。ギャングの話ではあるけれど、いわゆるギャングものというわけではなく、レーサーとしての栄光から転落の道を歩んでしまった男が、今度は裏の世界で名を挙げようもくろむ物語である。
そこにジャン=ポール・ベルモンドがピタリとはまり、完全にベルモンドの映画となっているので、スター映画ともいえるかもしれない。ベルモンドのイメージにもうまく重なっていて、ハードボイルドなギャング映画ではなくてロマンスも絡めていくというのも面白い。
そして、何といってもすばらしいのはこの映画が非常に「切ない」ことだ。クライム・アクションというとなんだか痛快というイメージがあるし、しかもこの主人公のオーは極悪非道の犯罪者というよりは犯罪のスタイルを重視する犯罪者で、映画の中でも言われているようにいわばルパン的な犯罪者であるのだ。だから、普通に考えたらすごく爽快な作品になりそうなものだが、決してそうはならず、常に切なさが付きまとうのだ。
最後まで見ればその切なさは完全に表面に出てくるわけだが、映画のはじめからなぜか切ない感じがする。それはこのオーがどこか人生に諦めを感じている。あるいは落ちてゆくしかない自分の人生の行く先がわかってしまっていて、刹那的な喜びしか求めていないからかもしてない。
そんな中で彼は自分が有名になること、刹那的ではあっても人の注目を浴び、ある種のヒーローになることを夢想して、そしてそれを他人を犠牲にせずにやろうとする。したがって彼が強盗をする目的は金そのものではない。彼が求めるのは名声と自由なのである。それは常に背反するものであって、両方を持ち続けることはできないわけだが、それでも彼は一瞬でもその両方を同時に持ちたいと願うのだ。
この映画自体映像やらなにやらも非常に60年代色が濃いわけだが、そんな刹那的な生き方をする主人公もまた60年代を体現する人物であるといえるだろう。彼は刹那的な名声と自由を求め、一瞬はそれを手に入れるわけだが、その代償はどこかで支払わなければならない。そんな結末が最初から見えているから彼の立ち居振る舞いには常に「切なさ」(あるいは「刹那さ」)が付きまとうのかもしれない。
決して名作とはいえない映画だが、ひとつの物語のパターンと60年代という時代が交差する作品として非常に優れた作品であると思う。じっくりと何度も繰り返してみるという作品ではないが、カフェなんかに入ってこの映画がさらりと流れていたら、そのカフェの行きつけになってもいいかなと思ってしまう。そんなしゃれた映画である。