新・座頭市物語
2004/1/4
1963年,日本,91分
- 監督
- 田中徳三
- 原作
- 子母沢寛
- 脚本
- 犬塚稔
- 梅林貴久夫
- 撮影
- 牧浦地志
- 音楽
- 伊福部昭
- 出演
- 勝新太郎
- 坪内ミキ子
- 河津清三郎
- 丹羽又三郎
- 須賀不二男
- 近藤美恵子
座頭市は以前切った男の弟に付けねらわれながら旅を続ける途中、郷里の幼馴染に会う。今は旅芸人をやっている幼馴染と旅籠に腰を落ち着けたところで、押し込み強盗がやってきて、貧乏人のなけなしの金を奪っていった。翌日、座頭市は掌の刺青を手がかりにその強盗を探し出し、金を取り戻した。そして、そこで天狗党という輩が強盗を繰返していることを聞く。
座頭市シリーズの第3作。61年に始まった勝新のもうひとつの大ヒットシリーズ『悪名』の監督田中徳三が初めて座頭市シリーズのメガホンをとった作品。人間性の部分に深く踏み込んで深みのある物語に仕上げている。
前作『続・座頭市物語』は実の兄との関係を描いたものだったが、今回は師匠との関係を描く。貧乏浪人である師匠と盲目でやくざものの弟子、師匠と弟子の関係は変わらないが、それぞれは人間として成長したり堕落したりして変化している。その変化してしまった部分からドラマが生まれ、物語が展開していく。そんな仁義の世界を描かせると田中徳三は非常にうまい。朝吉というやくざものを主役に据えた悪名シリーズも、仁義を重んじる朝吉の人間的な深みが物語を面白くしていたし、この作品も前2作と比べて座頭市のキャラクターに深みが出ているように思える。しかも、勝新太郎と非常に相性がいいらしい。勝新太郎のシリーズものといえば、「座頭市」「悪名」「兵隊やくざ」だが、それぞれ3作、8作、6作を監督しているまさに勝つ新映画のスペシャリストである。もちろんすべてを見たわけではないが、田中徳三が監督するとどのシリーズも面白い作品が出来上がるように思える。そして同時に勝新が非常に格好よく見える。
ということで、この作品も非常にいい。勝新太郎のたたずまいは時には悲哀をたたえたヒーロー見え、ブルース・リーを髣髴とさせる。あるいは一瞬の勝負に命をかける勝負しに見え、西部劇のヒーローを髣髴とさせる。つまり、この勝新は映画のあらゆるヒーローの髄を詰め込んだ「映画英雄」とでもいうべきものなのである。3作目になり盲目の演技も板につき、殺陣もぴたりと決まる。そんな男の格好よさのかたわらに漂う人間くささ。仁義と人情の人である座頭市の魅力が存分に発揮された作品である。
盲目というハンデを克服して居合い斬りの達人となった座頭市、しかしそれでも謙虚さは失わず、仁義・礼儀・礼節を守り、人へのやさしさを忘れない。そんな座頭市に対して、自らの苦境から人間性を失っていってしまう人々。そんな対比によって語られる物語は時代劇/任侠ものというジャンルを越えた普遍的な物語をはらんでいる。物語のパターンとしてはありきたりともいえるし、座頭市というシリーズもののパターンにはまってはいる。しかし、同じような物語が並ぶシリーズものの中でも光を放つ作品がいくつかあるそのひとつがこの作品なのだと思う。私は1作目よりも、2作目よりも、この作品の座頭市が好きだし、ここで初めて座頭市が一個のキャラクターを獲得したのだと思う。
映像も座頭市の心理を描写しているかのような寂寥感のある映像ですばらしい。特にラストが非常にきれい。
ということで、座頭市シリーズはたくさんありすぎてどれを見ていいのかよくわからん。という場合には、この作品を含めて3本くらい見れば、好きか嫌いか、もっと見たいかもういいか、ということがわかるのではないかという気がします。
わたしは、もう少し見てみたいな。と思いました。