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CQ

2004/1/18
CQ
2001年,アメリカ,88分

監督
ロマン・コッポラ
脚本
ロマン・コッポラ
撮影
ロバート・D・イェーマン
音楽
MELLOW
出演
ジェレミー・デイヴィス
アンジェラ・リンドヴァル
エロディ・ブシェーズ
ジェラール・ドパルデュー
マッシモ・ギーニ
ジャンカルロ・ジャンニーニ
ソフィア・コッポラ
preview
 『ドラゴンフライ』という作品の編集の仕事をするポールは映画監督を目指して私小説的なフィルムを撮っていたが、それに熱中するあまり一緒に暮らす恋人のマルレーヌとの関係がよくない方向に行ってしまっていた。そんなとき、プロデューサーのエンゾが映画の結末に文句をつけて監督のアンドレイをクビにしてしまう。新しく監督が迎えられ、撮影が再開されるはずだったが…
 フランシス・フォード・コッポラの息子ロマン・コッポラの長編第一作。舞台を1969年のパリに設定し、ノスタルジー心をくすぐるとともにポップな感覚を映画に持ち込む。妹のソフィア・コッポラもちらりと出演。
review
 基本的には60年代の空気である。監督はそれを出したいがためにわざわざ舞台を69年のパリに設定した。監督のロマン・コッポラが何年生まれだろうと実際のところ映画には関係ないわけだが、豆知識として言えば66年生まれ。つまり、この映画が掻き立てる60年代へのノスタルジーというものはこの監督にとっては経験しなかった過去へのノスタルジーなのである。この映画はそんな経験しなかった過去へのノスタルジーを中心として成り立っているように思える。そして、この映画を観る若者(観るのはたぶん若者だろう)にとってもそれは経験しない過去へのノスタルジーである。失われてしまった過去への憧れ、それがこのようなノスタルジーの原動力であるが、この映画は、そんなノスタルジーと過去への憧れをうまく利用しているのだ。
 ノスタルジーを中心に組み立てられたこの映画のノスタルジー構造は複雑なものとなっている。69年(から70年)に向けられたノスタルジーの先にあるのは未来という名の現在なのである。しかも、正確には2001年であり、この映画が撮られたまさにその時である。空想された過去によって空想された未来としての現在、このように非常に遠回りな形で現在を描こうとするからには、そこにはかなりねじくれた意図が隠されているのではないかと考えてしまう。
 過去にとっての未来であった現在、それを描きなおす(あるいは空想することによって新たに創造する)という行為は、想定されていたはずの現在と実際の現在とを比べて、失われてしまったものを見出そうという営為なのか。過去にあって現在にないもの、残して置けばよかったのに失われてしまったものが現在にあったはずの姿を提示することで、失われそうなものを見失うまいとする抗いなのか。

 この映画には登場するアンドレイ監督(ドパルデュー)は「革命」を信じている。この映画の設定では、映画『ドラゴンフライ』が作られているのは1969年だから、1968年の革命の記憶が生々しいという設定である。そのときすでに若者でなかったアンドレイ監督はそれでも、若者による革命を信じた。実現しなかった革命によって捻じ曲げられてしまった未来を空想し、そこに新たな希望の目を見ようとする。だから、彼は未来における革命を信じてやまない。あるいは現在における新たなる革命像を未来に投影したということか。とにかく、彼は革命を信じ、それを映画にしようとする。
 これに対してポールは革命を信じているわけではないようだ。彼は迷い、未来を見ることができない。アンドレイ監督が革命を信じるというのはつまり、革命を行う若者たちの手に社会の未来があると信じることであるが、そのアンドレイ監督の考え方をなぞり、それを自分なりに消化して『ドラゴンフライ』へと投影する中でポールは徐々に未来を捉えられるようになっていく。この映画はそんな物語なのだと思う。
 彼が革命を信じることになったのかどうかは明らかではないが、個人レベルでは自分の手に未来があると信じるようになったのだと思う。

 そして、そのような物語の舞台を過去に設定したのは、その時代にはそんな希望があったと信じられたからである。それもまたノスタルジーかもしれないのだが、現実に革命が起こった60年代のフランス、そこでは若者は未来が自分たちの手にあると信じていた。それこそが失われてしまったもの、この映画の作者が見失うまいと抗っているそのものなのではないか。
 あるいは、そのようなものが60年代末のフランスにあったと信じるからこそこんな映画を撮ったのではないか。未来に希望を持っていた彼らが撮った映画が描いた未来と現在がいかに違うか、それを考えてみることで、改めて自分のいる場所を知ることができるのではないか、とこの映画は我々に語りかけているのだ、と希望を持って言いたい。

 ところで、DVDには、映画『ドラゴンフライ』のアンドレイ監督バージョンとポール監督バージョンの2バージョンが収録されています。これがそれぞれ10分以上となかなかのボリュームでかなりの見もの。DVDの特典映像なんてたいがいたいしたものじゃないですが、これはかなり面白い。改めて見比べてみると、作品の理解が深まるというか、面白い考えが浮かんできます。
Database参照
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監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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