インソムニア
2004/1/24
Insomnia
2002年,アメリカ,119分
- 監督
- クリストファー・ノーラン
- 脚本
- ヒラリー・セイツ
- 撮影
- ウォーリー・フォスター
- 音楽
- デヴィッド・ジュリアン
- 出演
- アル・パチーノ
- ロビン・ウィリアムズ
- ヒラリー・スワンク
- モーラ・ティアニー
- マーティン・ドノヴァン
アラスカ州ナイトミュート、夏は白夜となり太陽が沈まない町で17才の少女が殴り殺され、ゴミ捨て場で発見された。翌日、ロサンゼルスから殺人課の刑事ウィル・ドーマーと相棒のハップが応援にやってくる。ハップは賄賂の嫌疑を内務にかけられており、そのとばっちりがウィルにも及びそうだった。ウィルはハップの件と白夜とで不眠症に悩まされながら、事件を解決へと導こうとするが…
『メメント』のクリストファー・ノーランがノルウェーで制作された作品をソダーバーグらのプロデュースによってリメイクした作品。クライム・アクションにしてはかなり独特な展開の仕方がなかなか面白い。キャストもアル・パチーノにロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクと個性的な面々がそろう。
クライム・アクション、あるいはクライム・サスペンスというのは大体パターンが決まっている。とくに、警察ものというと、これまでに無数の数が作られ、そのパターンは出尽くしたような感がある。クリストファー・ノーランはそんな既存のパターンの新しいバリエーションを見出すのがうまいようだ。前作の『メメント』では記憶喪失をかぎとして、新しいパターンのサスペンス構造を作り上げた。記憶喪失というネタ自体はそれほど新鮮なものではないわけだが、それを利用した物語の作り方が非常にうまかった。
この『インソムニア』はオリジナルではないが、新しいバリエーションを発見したという意味では『メメント』に通じるところがある。不眠症というクライム・サスペンスとは係わり合いのなさそうなねたをうまくドラマに組み込んで、ひとつのダイナミズムを生み出す。そのための白夜という設定もとても面白い。白夜や不眠症自体は誰もが知っていることで、映画にすることもできるだろう。しかし、それをサスペンスと結びつけるというところがこの監督の技なのだと思う。
さて、そのようにして定型的なパターンから外れているためにこの映画は不思議な映画になっている。犯人を追い詰めるサスペンスであるはずが、そのシンプルなプロット以外にもうひとつのプロット(内務調査)というプロットが加わり、それに不眠症が影を落とす。アル・パチーノはそんな複雑な状況を見事に演じ、寝不足でボォッとした顔で見事に演じる。そして、もう一人の名優ロビン・ウィリアムズも最近すっかり定着したサイコパスの表情を浮かべる。満月は人に異常な行動を起こさせるというが、白夜もまたそうなのかもしれないと思った。
この映画の中心的な3人の人物、アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクは、それぞれ白夜の経験が違う、アル・パチーノは初めて、ロビン・ウィリアムズは数度目(とほのめかされる)、ヒラリー・スワンクは生まれてからずっと経験している。結果的には、その経験の差がこの事件の本質的な原因であると推測できるのだ。
観終わってすっきり、という映画ではないが、なるほどふむふむとなんだか納得してしまうようなそんな映画。パターンにはまった物語は御伽噺のようにすっきりと観終えることができるが、新しいものは見終わってもなにかひっかかってしまう。この映画はまさにそんな感じで、それが面白いところなのかもしれない。