座頭市喧嘩旅
2004/2/1
1963年,日本,88分
- 監督
- 安田公義
- 原作
- 子母沢寛
- 脚本
- 犬塚稔
- 撮影
- 本田省三
- 音楽
- 伊福部昭
- 出演
- 勝新太郎
- 藤村志保
- 島田竜三
- 藤原礼子
旅の途中ぜひともと頼まれて堂山でわらじを脱ぐことにした座頭市だったが、旅の始まりで金で雇われた侍たちに付け狙われ堂山の使いが斬られてしまった。仕方なく旅を続ける座頭市は娘を探す侍たちと瀕死の老人を見つける。そして、瀕死の老人の頼みで娘を探し、世話をすることにしたが…
シリーズ5作目で、安田公義のシリーズ初監督作品。前作までで過去のしがらみを断ち切った座頭市がますますみなに恐れられる存在として活躍する。前作までの暗さがぬぐわれ、明るいイメージを持つ作品になっている。
プロットがなかなか練られていて話としてはよくできている。結局ヒーロー座頭市がさまざまな障害を切り抜けてハッピーエンドになるという結末。その結末は見えていながらも、展開の面白さで見せるというのはなかなかの力量であると思う。それにはやはり複数のプロットを絡み合わせたのが功を奏した。基本的には2つのやくざ勢力の対立、お美津の争奪戦だが、そこにお久の座頭市に対する微妙な距離の取り方と、座頭市のお美津に対する淡い恋心というサブプロットが加えられている。このプロットの複雑な組み合わせが観客をハラハラドキドキさせる展開を生んでいるのだと思う。これまで4作の座頭市の人間的な魅力とやくざの仁義が作り出す展開力で魅せてきたものとは明らかに違う展開の仕方である。
そして、ヒーロー座頭市に対する大きなライバルがいないというのも、これまでとは違う展開を見せる。これまではひとり座頭市に近いくらいの力を持つライバルがいて、そのライバルとの関係が物語りに大きな影響を与えていた。しかし、この作品では大きなライバルは登場しない。しいてライバルといえるのはお久だが、別に対決をするわけではない。だからこそプロットを練って何とか面白くしようとしてるわけで、それがかなりうまくいっている。さらに、最後の盛り上がりはライバルとの1対1の対決というのが、とても作りやすい展開のわけで、その展開のとり方ができず、最後の盛り上げ方に苦労するはずなのだが、安田公義はそのあたりもうまく乗り切って、なかなかいい終わり方でまとめた。
そしてもうひとつ、この作品では座頭市のコミカルな部分がクロースアップされる。これまでもコミカルな要素はあったのだが、ほかの部分の暗さを少しでも埋めようという狙いというか、座頭市がコミカルな面を持つことでヒーローとしての価値が上がるというか、あくまでも映画作り、キャラクター作りのためのコミカルだったのだ。しかし、この作品では明らかに観客を笑わせるためにコミカルなシーンを要所要所に入れ込んでいる。これがなかなか面白くていい。
これらを全部あわせ考えてみると、この作品はこれまでは非常に力のこもった作品であった座頭市を、ひとつの典型的なパターン化できるシリーズもの位置まで引き摺り下ろした作品だといえるのではないだろうか。それは別にけなしているわけではなく、シリーズとして安定した人気を誇るためには必要なことだ。これまでの4作品のような作品を撮り続けるには、次の作品次の作品とどんどん力のあるものにしていかなければならない。それにはたくさんの才能をつぎ込み続けなくてはならないはずだ。
しかし、この作品がとられたことで、いろいろな監督がこの作品を取るとこができるようになった。三隅研次や田中徳三でなくとも座頭市を撮れるのだ。その証拠にというわけではないが、これ以降、三隅研次、田中徳三、森一夫、安田公義に加えて、池広一夫や井上昭、さらには山本薩夫、岡本喜八もシリーズのメガホンを取った。それでも座頭市は座頭市、そのようにできるレールをこの作品が築いたのだと思う。