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散歩する惑星

2004/2/3
Sanger Fran Andra Vaningen
2000年,スウェーデン=フランス,98分

監督
ロイ・アンダーソン
脚本
ロイ・アンダーソン
撮影
イストヴァン・ボルバス
イェスパー・クレーヴェンオース
音楽
ベニー・アンダーソン
出演
ラース・ノルド
シュテファン・ラーソン
ルチオ・ヴチーナ
ハッセ・ソーデルホルム
preview
 日焼けマシンに入っている社長が700人のリストラを宣言する。30年勤め上げたサラリーマンは突然のリストラに泣き喚く。その会社に人を探しに来た男はなぜか会社の前でリンチにあう。マジシャンは人体切断のマジックに失敗し、客のおなかを切ってしまう。家具屋のカールは店を焼いてしまい、その上息子が精神病で入院していることを嘆く…
 スウェーデンの映画監督でCF界の巨匠でもあるロイ・アンダーソンが構想20年、撮影に4年をかけて完成させたシュールな映画。ペルーの詩人セサール・バジェッホの詩にインスパイアされた作品でもある。
review
 悲劇をとことん突き詰めていくと、どこかで喜劇になる。この映画はそのぎりぎりのわずかな隙間に、見事にその身を横たえる。それは悲劇とも喜劇ともつかない不思議な哀愁を伴う映画である。
 最初はなんとも遅々としている。どうも何に集中していいのかわからず、カウリスマキを思い浮かべては、北欧の映画とはこのような長い「間」を伴うものなのか、というあやふやな感想を持ってみたりする。そして、映画のテーマというか、何が描かれているのかということが判然としない。この何が描かれているか判然としないという印象は映画の最後まで付きまとうけれど、映画が進むにつれて、なぜか映画には緊迫感が漂い始め、自分が何かに集中しているのが感じられる。しかし、それが何の緊迫感なのかはわからない。
 ある種のカフカ的世界といってしまえば、なんとなく納得はできるけれど、そういってみたところで、それが結局何なのかということはわからない。この映画ではさまざまなことが起こり、それによって人々は悲劇に陥る。しかし、その原因はわからない。物事には原因があり、結果がある。その原因-結果という因果律を人々は物語に期待し、映画には物語を期待する。しかし、この映画にはそのような物語は一切存在しない。あるのは結果だけ。
 因果律が存在し、それを理解することができれば、そこから何かを導き出すことができる。結果が悲劇であれば、その悲劇を生む原因となったことについて考えることができる。結果が喜劇であっても、その喜劇を生む原因となったことを楽しむことができる。
 この映画には悲劇的な結果だけが存在し、その原因が明らかにされることはない。しかし、漠然と考えてみると、さまざまに起きる悲劇的な結果の原因は元をたどればどれも同じようなことであるようなのだ。「この国」と呼ばれるその場所の閉塞状況、脱出しようとする人々、「この国」がだめになってしまった原因を記したレポートを探す一人の老人。それは「短いものだけれど複雑で説明できない」と言うこの老人が一番この映画を理解するためのわかりやすいヒントを提示しているのかもしれない。

 その老人をはじめとして、終盤になると、さまざまに象徴じみた物事が画面をにぎわす。それが語ろうとしているのはキリスト教の行き詰まりか?。将校と司教が一緒になって行う生贄の儀式、それが意味することはあまりに悲しい。詩人の弟は詩人の復活を信じる、たびたび叫ばれるその詩はいったい何を意味しているのか(おそらくこの詩は映画の冒頭でオマージュをささげられているセサール・バジェッホの詩であると思うのだが…)。脱出しようとしても荷物が重すぎてなかなか脱出できない人々。彼らはあるいは、強欲というキリスト教的な罪を象徴してるのか? 霊に付きまとわれる男。彼もまたその強欲を罰せられているのか、あるいは資本主義に対する批判が込められているのか? これらは人間の業の深さ(あるいは原罪の重さ)を意味していると解釈することもできるだろう。となると、キリスト教の行き詰まりという推測とは逆に、宗教が救いになりうるという意味も浮かび上がってくる。
 しかし、そう解釈したところで、そのすべてははかない推測であり、そこに今ある苦境から救ってくれるものが何か提示されているわけない。悲劇的な結果だけがあり、原因もなく、その悲劇を乗り越える方法もない。
 あるのは何かが変わろうとしているという雰囲気と、悲劇を突き詰めたところに存在が感じられる喜劇の影だけなのだ。果たして悲劇を突き詰めたところにある喜劇が何かの救いになるといえるのだろうか? この映画がその救いなのだろうか? 何もかもがうまくいかなくなったとき、人間は逃げる以外にいったい何ができると言うのだろうか?
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: スウェーデン

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