ギャンブル・プレイ
2004/2/20
The Good Thief
2002年,イギリス=フランス=カナダ=アイルランド,109分
- 監督
- ニール・ジョーダン
- 原作
- ジャン=ピエール・メルヴィル
- オーギュスト・ル・ブルトン
- 脚本
- ニール・ジョーダン
- 撮影
- クリス・メンゲス
- 音楽
- エリオット・ゴールデンサール
- 出演
- ニック・ノルティ
- チャッキー・カリョ
- ナッサ・クヒアニチェ
- サイード・タグマウイ
- エミール・クストリッツァ
- レイフ・ファインズ
フランス、ニースのダウンタウン、ジャンキーでギャンブラーの初老の男ボブはこの街で麻薬とギャンブルにおぼれていた。そんな彼の行きつけのクラブで顔見知りの刑事がこれまた顔見知りの売人に殺されそうになったのを救い、ボスニアからやってきた17才の少女アンをヒモの暴力から救った。実は彼は前科もちの元泥棒。足を洗ったはずの彼だが、その彼のところに仲間のラウルが大きなヤマを持ってくる。
『クライング・ゲーム』など脚本のうまさに定評のあるのニール・ジョーダンがフィルム・ノワールの傑作『賭博師ボブ』をもとに作った作品。オリジナルから脚本がかなり書き換えられていて、ニール・ジョーダンらしいひねりが効いていて面白い。
ニック・ノルティの登場で、普通のアメリカ映画を予想させるが、舞台はフランスの高級リゾート地ニース、しかも最初の場面で発せられるのはアラビア語の「サラーム」である。ニースは高級リゾート地であると同時に、地中海に面し、イタリアまでも車ですぐ、さらに海を渡れば北アフリカという土地でもある。
そんな土地の裏の顔、それは多くの観光地と同じく、売春と麻薬、である。その混沌とした情景を混沌のままに提示するのがこの映画。麻薬とギャンブルにおぼれ、部屋に飾ってあるピカソからもらったという絵だけが誇りという元泥棒(前科4犯)のボブ(フランス人とアメリカ人のハーフらしい)、そのボブに命を救われ、ボブに二度と犯罪を犯させないことに腐心する刑事のロジェ(多分フランス人)、ボブに拾われて、ボブにあこがれるポーロ(多分アラブ系)、ボブに助けられ、ボブに思いを寄せているらしいアン(ボスニア人)、ボブに麻薬を売る売人のサイード(アルジェリアからの不法移民)など雑多な人たちが当たり前に存在する世界、それをくどくどと説明することなく、ぱっと画面で表現してしまう。そのあたりがこの監督のすごいところなのだと思う。
そして、展開のほうもかなり楽しめる。ニール・ジョーダンといえばなんといっても『クライング・ゲーム』のあのどんでん返しが有名なだけに、観客の意表をつくのは得意技、この映画も最後の最後まで自体がどう転ぶのか読めない。ハリウッド映画のような単純な善/悪、あるいはヒーロー/アンチ・ヒーロー、という対立軸で物語が展開されていくのではなく、それぞれがそれぞれに思惑を抱え、その思惑と偶然とに突き動かされて行動することで、物語は誰にも予想できない方向に転がっていくのだ。
その物語の展開の仕方に、私は言いようのないリアリティを感じる。物語は中心となる人間の思惑によって展開されたほうがわかりやすいが、リアリティを追求すればそれよりも集団的意識というか、さまざまな人の意図の綱引きによって展開される物語に行き着くはずだ。
それは非常に映画的な物語でもある。一人称の物語は小説など言葉による語りによっても可能であるし、そのほうが物語に没入できるような気がする。しかし、複数の一人称が登場し、そこから複雑な物語がつむぎだされるという描き方をするには映画のほうが向いているし、映画とは一人称の語りには向かないメディアでもあるのだと思う。だから、この映画の細部にいたるまでの一人称の積み重ねは非常に映画的であり、映画で表現するべき物語を見事に表現しているのだと思う。
なんだか小難しいことを言っているようだけれど、それはこの映画がなんだか眉間にしわを寄せてしまうようなオトナの男な感じの映画であるからかもしれない。とにかく「渋い」。笑わせるような子ネタも出てくるけれど、それまで渋い。出てくる人もみんな渋い。絵画にカジノというのも渋い。そんな渋さが小難しいことを考えさせる。からりとしたサスペンスと見ることも可能なつくりにはなっているけれど、魅力は渋さにあると思うので、渋好みの方はぜひどうぞ。