女囚701号 さそり
2004/2/27
1972年,日本,87分
- 監督
- 伊藤俊也
- 原作
- 篠原とおる
- 脚本
- 神波史男
- 松田寛夫
- 撮影
- 仲沢半次郎
- 音楽
- 菊池俊輔
- 出演
- 梶芽衣子
- 横山リエ
- 夏八木勲
- 渡辺文雄
- 扇ひろ子
- 室田日出男
とある刑務所、所長の功績をたたえた表彰式が行われているさなか、サイレンが鳴り響き、脱獄を告げる。脱獄したのは女囚701号松島ナミである。必死の逃走劇を繰り広げるが、結局つかまってしまい懲罰房へ入れられる。どんな拷問にも口を割らないナミは、実は心に深い恨みを抱えていた…
伊藤俊也&梶芽衣子のヒットシリーズ「女囚さそり」シリーズの第1作。超B級、エログロ路線でありながら、映画としての完成度は高く、人間ドラマとしての見ごたえも十分。映像も前衛的で、梶芽衣子の魅力も炸裂しているものすごい作品。
なんと言ってもすごいのは映像である。自由奔放というか、ハチャメチャというか、シネスコの画面を自由自在に使って、意表をつく映像を次々と見せる。ついつい笑ってしまうか、目を回すか、どちらにしろ見てみなければわからないこのすごさ。衝撃度はかなりのものです。
内容のほうはかなりきつい。ヌードがどうのとか、暴力シーンがどうのとかいうことではなく、人間の醜さをとにかく表に出した描き方が、鋭く空間を切り裂きます。作品のテーマは「恨み」というわけですが、それに限らず、人間がいかにいとも簡単にほかの人間を傷つけることができるのか、ということがつぶさに描かれていて、観ているだけで痛い。この痛みは世の中に向けたれたものなのか、それとも自分のうちにその痛みの原因があるのか、問おてしまいそうな痛みがあります。
ということで、かなり観るのはつらく、未成年には見せないほうがいいと思いますが、しかしこれが世間の真実に(隠されている部分に)ずばりと切り込んで行っているということもまた確かなわけで、オトナたるもの自分の心に刻まれる痛みに耐えながら見なくてはなりません。
その痛みを和らげるためだかどうだかわかりませんが、映画のテイストはB級にされ、作り物とわかるような残虐シーンが使われています。これによって意図的にしろ結果的にしろ、辛らつさは薄れ、あまり痛みを引き受けずに画面上の出来事として観られるが観る側にとっては救い。そして、それが映画のなかなかうまい点でもあります。
さらに、映画の冒頭に君が代が流れ、日の丸が映るのを皮切りとして何度かその日の丸のイメージが登場します。これが意味するのは体制批判ということになり、それでまた痛みが和らぎます。つまり、痛みの原因が見ている私の罪悪感にあるのではなく、世の中の汚れにあるのだと責任転嫁することができるからです。確かに、体制批判というメッセージも込められているのかもしれませんが、それによってどうこうしようということよりは、観客がつらくならないように逃げ道を作っているのだと感じられました。
なんとも表現するのが難しいですが、とにかく鋭い映画です。映画自体も鋭ければ、梶芽衣子の視線も鋭い。この鋭さにわが身を切り刻まれないように注意してみましょう。