ペイチェック 消された記憶
2004/4/3
Paycheck
2003年,アメリカ,118分
- 監督
- ジョン・ウー
- 原作
- フィリップ・K・ディック
- 脚本
- ディーン・ジョーガリス
- 撮影
- ジェフリー・L・キンボール
- ラリー・ブランフォード
- 音楽
- ジョン・パウエル
- ジェームズ・マッキー・スミス
- ジョン・アシュトン・トーマス
- 出演
- ベン・アフレック
- アーロン・エッカート
- ユマ・サーマン
- コルム・フィオール
- ポール・ジアマッティ
期間を区切って研究に参加して高報酬を得る代わりに、知的財産権を放棄し、その間の記憶も抹消するという仕事をしているエンジニアのマイケル・ジェニングスは友人のジェームズから3年という前例のない長い期間の仕事を依頼される。マイケルはためらうが、法外な高報酬に惹かれて引き受ける。そして3年の期間が過ぎ、約束の報酬をもらおうと弁護士事務所へと行くと、そこでは彼自身が報酬を放棄した証拠と、彼自身のものではない私物があるだけだった…
フィリップ・K・ディックの原作をもとにドリーム・ワークスが製作した近未来サスペンス。監督は『M:I-2』のジョン・ウー。
サスペンスとしてはまあそこそこだと思うが、映画としてはまったく持って毒にも薬にもならない映画。ドリーム・ワークスが作ったのだから仕方がないといえばないのだが、フィリップ・K・ディックの原作をとにかく骨抜きにして、噛み砕いて少年向きに作り直したという感じ(原作読んでないけれど)。小学校高学年くらいなら楽しめると思うけれど、中学生になるとちょっと物足りなさを感じるだろうというレベルの作品。
設定が近未来で、記憶を消すとか、実際に立体のディスプレイとかいう部分はそれなりに説得力を持っていて、ありそうという感想を持つ。それは細部にこだわっていて、実際に可能かどうかは別にしても、何か理論的に成立しているように思わせるからである。
だから、物語に入っていくのは非常にスムーズである。謎の存在もわかりやすく、敵の存在もわかりやすい。謎解きの筋道もあらかじめ立っていて、ヒーローもヒロインも用意されている。そして、謎を組み立てる19のアイテム、これがなかなか憎い演出で、その一つ一つの理由を探すのはゲームとして面白い。
と、ここまではいいのだけれど、そこまでしかない。その謎解きはあくまでも映画の中で展開されるわけで、見ている観客が疑似体験できるものとはとても思えない。
それはあたかも友達がロールプレイング・ゲームをやっているのを観ているようなもので、まったくもって傍観者としてみることでしかない。それはなぜかといえば、この映画に描かれている世界はリアルであるにもかかわらず、登場人物たちがあまりにリアルでないからだ。アクションシーンがあって、殴る蹴るの格闘があって、銃を撃って、マシンガンも撃って、爆発もするけれど、人は死なないし、血は流れない。そんなおもちゃみたいなアクションシーンしかこの映画には登場しない。そして、ラブ・ストーリーもサブプロットとして重要であるにもかかわらず、ちっとも肉体を感じることができない。セックスもしなけりゃ、心を通わせているともとても思えない。これじゃあまったくままごとのラブ・ストーリーでしかない。
それもこれも、おそらくこの映画を作ったのがコドモの味方ドリーム・ワークスだからだろう。これでもアメリカではPG13がついたというのが驚きだけれど、ドリーム・ワークスとしては、サスペンスでも家族で楽しめるものを作る。それは『男たちの挽歌』のジョン・ウーが監督でもそうなのだ。ジョン・ウーはドリーム・ワークスに骨抜きにされてまったくつまらない映画を撮ってしまった。きっと無念だったことだろう(というか、無念だと思っていてほしい)。無理やり鳩を登場させたのは無言の抗議か。