乱暴者
2004/5/12
El Bruto
1952年,メキシコ,81分
- 監督
- ルイス・ブニュエル
- 脚本
- ルイス・ブニュエル
- ルイス・アルコリサ
- 撮影
- アグスティン・ヒメネス
- 音楽
- ラウル・ラヴィスタ
- 出演
- ペドロ・アルメンダリス
- ケティ・フラド
- ロシータ・アレナス
- アンドレス・カブレラ
地主のアンドレスに追い出されそうな貧乏アパートの住人たちはカルメロを中心に団結し、抵抗していた。地主のアンドレスはどうしてもその土地を売るため、“ブルート(乱暴者)”とあだ名されるペドロを雇って彼らを脅そうと考えた。ペドロがカルメロを脅そうと夜道で殴り倒すと、カルメロはそのまま死んでしまった…
メキシコ出身でフォード映画の三枚目として活躍していたペドロ・アルメンダリスの本国での主演作。ブニュエルらしからぬストレートなストーリーだが、映画のエッセンスとしてはブニュエルらしさも感じられる。
映画の前半では、これはコメディ映画なのだ、と思う。ブニュエルらしい笑いがそこここにちりばめられているわけだが、そんな中でアルメンダリスのキャラクターがいい。さすがにハリウッドでもまれたからなのか、毅然とした態度でマヌケなキャラクターを演じる。マヌケなキャラクターなのに毅然としているというのは変に感じるかもしれないが、この映画のアルメンダリスはそう表現する以外にないという感じがする。
それを観ていると、さすがのブニュエルもハリウッドの威信に負けてしまったのかな、という感じがするが、ブニュエルはブニュエルで、パロマといういかにもブニュエル的なキャラクターを用意した。パロマは地主のアンドレスの妻なのだが、アンドレスが典型的なブルジョワ地主なのに対して、パロマはおそらく使用人上がりのメスティソである。アンドレスはメイドだったペドロの母親に手をだしたということもほのめかされている(さらにはペドロがアンドレスの息子かもしれないということもほのめかされている)から、パロマもそんな立場から妻の地位を射止めたのだろう。そのパロマは、夫を操り、ペドロにも色目を使う非常に剛健で我の強い女である。ブルジョワの軟弱男に、剛健で我の強い女、この組み合わせからブニュエルはメキシコ的なものを表現する。
それはメキシコ人でありながらハリウッドを持ち込んだアルメンダリスとは非常に対照的なものである。ブニュエルもこの段階ではいわゆる「売れる」映画を作らなければならない立場であり、そのためにハリウッドで活躍していたアルメンダリスを使うというのは仕方のない選択だったのだと思う。しかし、完全に彼の映画にしてしまうことなく、ブニュエルらしさメキシコらしさを周到に織り込んでいって、最後にはアルメンダリスをも飲み込んでしまう。その抜け目のなさこそがブニュエルなのだろう。
非常に後味の悪いラスト・シーンを見るにつけ、ブニュエルの意地悪さ、力強さを感じてしまう。
物語はアンドレスを中心に展開されているかのように見えるが、彼はただの狂言回しであって、いわば旧時代の象徴なのである。その旧時代の象徴を中心として侵略してくるアメリカと土着のメキシコとが対立している。大げさに見れば、この映画はそのように読み取ることもできるのかもしれない。映画の上ではアルメンダリスにアメリカの影は見られないわけだが、このころすでにハリウッド映画がメキシコで広く見られ(というよりは、映画といえばハリウッド映画しかほとんどなかった)、その中でアルメンダリスが英雄視されていたことが、この時代のメキシコには前提としてあり、ブニュエルはそれをひとつの脅威としてみていたのではないか。邪推に過ぎないのかもしれないが、当時のメキシコの社会状況を考えると、そんな想像をしてみたくなる。