凸凹太閤記
2004/5/26
1953年,日本,84分
- 監督
- 加戸敏
- 脚本
- 民門敏雄
- 撮影
- 牧田行政
- 音楽
- 白木義信
- 出演
- 森繁久弥
- 伏見和子
- 入江たか子
- 黒川弥太郎
- 坂東好太郎
- 清川虹子
織田信長の槍隊に入ることができた木下籐吉郎は長い槍をとがめられ、クビになりそうになるが、それを遠眼鏡で覗いていた信長の目に留まり、馬丁となる。籐吉郎は主人の馬についていけず、近道を通って先回りしたり、何かと悪知恵を働かせて信長を驚かせていた。そんな籐吉郎には心を寄せるおねねという娘がいたのだが…
まだ若い森繁久弥主演の時代劇コメディ、サル顔が籐吉郎にぴたりとはまる。喜劇役者森繁の活きのいい演技がおもしろい。
森繁久弥もいまは小難しい顔をした爺さんになってしまったが、言うまでもなく喜劇役者であり、「社長シリーズ」なんかで大人気だったわけである。この作品はそんな森繁がまだ30歳位だったころの作品。1950年に実質的なデビューということで、デビューしてそれほど経ってはいないのだけれど、その間にかなりの数の作品に出演していて、一気に喜劇役者として売れっ子になった感じである。森繁というと東宝というイメージがあるが、社員ではなく、この作品など大映の作品も多い。
そんな予備知識はいいとして、とりあえず森繁の喜劇役者としての原点があるというか、後々の森繁のさまざまな要素がすでにあるといっていい。喜劇役者といってもどたばた喜劇を演じることはない。森繁は笑われるよりも笑わせる役を多く演じ、その劇の多くはペーソスを感じさせるものであった。だから、おかしなキャラクターでありながら知恵者という木下籐吉郎の役はピタリと来るし、朗々と詩を詠ったりというなんだか上品な感じの役柄も違和感がないのだ。
詩を歌うといえば、この映画は太閤記といいながら、どう考えても「シラノ・ド・ベルジュラック」を基にしている。太閤記といい、信長と籐吉郎が主人公だけれども、籐吉郎とねねの恋の物語が中心になっているのである。一応、出世話がメインで、恋の話はサブのプロットとなっているのだろうけれど、出世のほうはまだまだこれからというところで話が終わってしまうので、結局のところ恋の話だったんじゃないかという印象を受ける。この辺りは、ハリウッド映画のサブ・プロットとしてあった恋の話が結末に使われてなんとなくハッピーエンドとして終わってしまう感じに似ている。果たしてそれを意識していたのかどうかはわからないが、とりあえず、時代劇という場を借りて、西洋的なものを作ろうとしていたことは確かだろう。
映画としては何とも地味な作品で、監督も、森繁以外の役者もあまり知られていない感じだが、日本映画の黄金期が始まる前、日本の映画がさまざまな物を取り入れ、いろいろな新しい役者を起用していった、そんな時代の空気を感じさせる作品である。
シリーズ化されて、籐吉郎が本当に太閤になるまでやってみても面白かったんじゃないかなぁ…