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鰯雲

2004/6/19
1958年,日本,130分

監督
成瀬巳喜男
原作
和田傳
脚本
橋本忍
撮影
玉井正夫
音楽
斎藤一郎
出演
淡島千景
新珠三千代
中村鴈治郎
小林桂樹
木村功
飯田蝶子
司葉子
清川虹子
太刀川洋一
加東大介
杉村春子
preview
 八重は戦争で夫に死なれ、姑に気を使いながら一人息子の正と3人で暮らしていた。近所には兄と6人の子供たちも暮らしていた。そんな八重のところに新聞記者の大川が農村と女性について質問をぶつけにやってきた。あけすけにものを言う八重は大川と意気投合し、駅まで送っていったところで料理屋に入るが、そこで女学校の同窓生である千枝に出会った。
 八重を中心にして、兄の長男の嫁取りの話など、いろいろな出来事が交錯する成瀬らしいオーソドックスなドラマ。
review
 この映画は群像劇ではないけれど、たくさんの人が登場する。それはこの映画が「世代」というものを問題にした映画だからである。主だった登場人物の中でもっとも年嵩なのは、八重の姑である年齢は判らないが、60歳は越えいているだろう。次が八重の兄の和助でおそらく50代。大川は40歳くらい、八重は30代後半、初冶は30代前半だろうか。次男の信次は20代後半、三男の順三といとこの浜子は20歳くらいである。それに初冶の嫁候補のみち子(20代前半)、その継母とよ(50歳くらい)が加わる。
 基本的に問題にあるのは親である和助と子供たちの親子の世代の違いであり、八重はちょうどその中間に入って橋渡しの役割を果たす。そして長男の初冶もその役割の一端を担う。親は時代の変化についていけず子供たちに昔の価値観を押し付ける。それに対して、八重と初冶は和助をなだめたりすかしたりしながら、和解を実現しようとがんばるのだ。

 その世代の違いというものがあらわにするのは時代の変化である。この映画が作られたのは1958年、戦争が終わって13年、この映画でいえば実際に戦争に行ったのは初冶より上の世代であり、信次より下の世代は戦後の教育を受けたということになる。これによって価値観は大きく変わる。日本を取り巻く状況も変化し、日本という国時代も激変していた。そんな時代の変化を成瀬は世代の違いによる価値観の違いとして捕らえようというのだ。
 その要素としては主に3つのものが挙げられる。ひとつは恋愛。八重と大川の不倫、初冶とみち子の結婚が、いわゆる「自由恋愛」というものがもう当たり前のものであり、結婚とは家と家を結ぶものであるということを明確に否定する(八重によって明言される)。それを和助は昔の価値観にはめ込もうとして時代とのズレを鮮明にするのである。
 もうひとつは都市化である。この映画の舞台となっているのは厚木、映画の中でもロマンスカーが遠景で捉えられているように、小田急線の沿線で、今なら新宿から1時間足らずの距離である。このあたりはまだ農地が広がっているが、郊外の住宅地化は確実に進んでいた。そんな中で「東京」に対する距離感が世代によって変わってきていて、若い世代ほど「東京」を近いものだと感じているように思える。この距離感の違いは、彼らが抱える農地の捉え方の違いにもつながってくるのではないかと思う。明確には語られていないが、若者たちは果たしてこのままここで百姓を続けていられるものか、という根本的な疑問を持っているのではなかろうか。
 そして最後は、経済的な観念である。この映画にはたびたびお金の話が出てくるが、「農業」と「月給取り」と「お金」の関係、さらに加えるなら「学歴」の関係も変化して行っているのである。

 この「お金」というモチーフを成瀬はかなり頻繁に扱うような気がする。特に、時代の変化を映画のテーマ(というか対立軸)とするような場合にはたびたび「お金」を問題化する。これは成瀬が日本が迎えようとする変化というものが「人」と「金」の関係の変化だと考えていたからなのではないかと思う。
 成瀬は社会の変化というものをモチーフにし続けてきたが、その中心にあると考えていたのが「女性」と「お金」だったのだと思う。女性と社会の関係性が変化し、人間とお金の関係性が変化する。その2つの変化によって日本と人間とその関係性は大きく変わっていくのだと鋭く批判的に捉えていたのではないかと思う。成瀬は「女性」を描いた監督だとよく言われるが、それは彼が社会の変化を捉えるために重要な要素だったからであり、「お金」も同じく重要な要素であったのだと思うのだ。

 この映画は「お金」の物語ではないが、お金が重要なモチーフになっている。そして同時に、確実に八重という一人の「女性」の物語であるのである。それはまさに成瀬らしい映画であるということだ。

Database参照
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国別・年順: 日本50年代以前

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