ル・ブレ
2004/6/24
Le Boulet
2002年,フランス,108分
- 監督
- アラン・ベルベリアン
- フレデリック・フォレスティア
- 脚本
- トマ・ラングマン
- マット・アレクサンダー
- 撮影
- ジャン=ピエール・ソーヴェール
- マヌエル・テラン
- ヴィンセント・マティアス
- クリストフ・パトュランジ
- 音楽
- ロベール・バサルテ
- 出演
- ジェラール・ランヴァン
- ブノワ・ポールヴールド
- ロッシ・デ・パルマ
- ホセ・ガルシア
- ジャイモン・フンスー
警察の「犬」となっていた仲間の弟を殺して刑務所に入れられたモルテスは7年間のムショ暮らしで看守長のレジオとも仲良くなっていた。そして、モルテスがレジオに頼んでおいた宝くじがなんと1500万ユーロの大当たり。しかし、その宝くじはレジオの妻ポーリーヌがアフリカにもって行ってしまったらしい。「殺される」と恐れるレジオのところにモルテスが脱獄してやってくる…
一応アクション映画だが、実際のところハチャメチャな笑いが映画の主役。なんと言ってもアルモドバル映画でおなじみのスペインの怪女ロッシ・デ・パルマが効いている。
この映画がアクション映画だとしたらひどい話である。なんと言っても展開が強引過ぎるし、プロットに必然性がなさ過ぎる。ということで、この映画はコメディ映画なわけで、そのことはこの映画の終盤にはわかり安すぎるほどに判ってしまうことである。
しかし、映画の序盤ではまるでアクション映画であるかのように展開する。フランス人が大好きな(と私が思っている)カーチェイスシーンもあるし、そのカーチェイスシーンにはなかなかの迫力がある。
でも、そのカーチェイスシーンがこの映画がイカ映画(イカれてるけどイカす映画)であることを証明する最初のシーンになる。なんと、この主人公モルテスは車でジャンプして、観覧車を突き抜けて逃げようとする。それを追う警官もバイクで観覧車を突き抜けるわけだが、その観覧車が支柱から外れて転がるというわけのわからない事態になる。こんな変なアクション映画はない。しかもその観覧車はCGバリバリで迫力も何もないのだ。そんなにスピード感もないし、別に観覧車が転がってきたところで「でかいなぁ」と思うくらいで逼迫するような危機感はない。そのあたりの失笑でこの映画がイカ映画だと気づくわけだ。
そして、それは砂漠のアフリカに行ってパワーアップする。クライマックスはロッシ・デ・パルマが踊るマンボのシーンである。必然性があるようで実はまったくない無意味に長いマンボのシーン、それを踊るのがロッシ・デ・パルマだというのがまた強烈である。
それにしてもこのロッシ・デ・パルマは「美女」という設定の役を演じることが多い。どう見ても美女というよりは魔女だが、ヨーロッパではあういう顔が受けるのだろうか。いつも見るたびに不思議でならない。が、とにかく存在感だけはこの中でもヅ抜けている。
もうひとつおおしろいと思ったのが、モルテスの敵役である“トルコ”が繰り返し“クルド”と呼ばれるというところ。トルコとクルドを間違えるというのがそもそもありえそうもない話だが、トルコをクルドと間違えるというところに含蓄がある。いうまでもないがクルド人といえばトルコ人に迫害され続けている民族であり、トルコ人のクルド人に対する差別意識は強いといわれる。“トルコ”は実際にトルコ人というわけではないと思うのだが、トルコ人にとって見ればクルド人に間違われるということは非常に腹立たしいことなのだろうと思う。
しかし、それはこのトルコ人がクルド人を差別するという構造に対する冷笑的な批判でもある。
イカ映画でありながら、社会派シニカルギャグまではなってしまう。意外にこの映画すごいかもしれないと思う。
終盤はなんかの映画のパロディ風という感じになるが、このアラン・ベルベリアンという監督、『カンヌ映画祭殺人事件』というパロディだかサスペンスだかわからない映画でデビューし、『パパラッチ』『シックス・パック』という作品を監督している。他の作品も要チェックかもしれない…