パンチドランク・ラブ
2004/8/18
Punch-Drunk Love
2002年,アメリカ,95分
- 監督
- ポール・トーマス・アンダーソン
- 脚本
- ポール・トーマス・アンダーソン
- 撮影
- ロバート・エルスウィット
- 音楽
- ジョン・ブライオン
- 出演
- アダム・サンドラー
- エミリー・ワトソン
- ルイス・ガスマン
- フィリップ・シーモア・ホフマン
- メアリー・リン・ライスカブ
ロサンゼルスに住むバリー・イーガンは倉庫で吸盤棒を売る商売をしている。バリーは食品会社のマイレージ特典でマイルをためるためプリンを大量に買い込もうとしていた。また、その日は実家でパーティーが有り、七人の姉がかわるがわるバリーに電話をかけてくる。そしてその夜、パーティーでいつものように姉たちにからかわれたバリーは切れて窓ガラスを蹴破ってしまう。
バリーという情緒不安定な主人公が姉たちに振り回されながらも、仕事に恋にがんばるというお話。ポール・トーマス・アンダーソンらしい妙な雰囲気がとてもいい。アダム・サンドラーとエミリー・ワトソンという組み合わせもいい。
ポール・トーマス・アンダーソンといえば、とりあえず『マグノリア』が印象的で、その独特の世界観で独特な映画を撮る。この作品もそんな雰囲気のままに、しかも力が抜けた感じで面白い。『マグノリア』は力が入りすぎていたというか、「なにかしてやろう」という気持ちが強すぎてどうも空回りしているところがあった感じだったが、今回は無駄な部分をとことんそぎ落として、シンプルにした分、その世界観の面白さが際立った気がする。
それでも、ひとつの作品に様々なエッセンスを盛り込むという手法は相変わらず巧妙である。この映画は互いに絡み合って入るが、姉たちの話、プリンの話、リナの話、セックス・ダイヤルの話、という4つの話が登場する。とりあえずはリナとのラブ・ストーリーが主プロットであるわけだけれど、そのほかのプロットも独立したひとつの話になっている。とくに姉たちとの関係はこの映画によって切り取られたほんの一部ではとても収まりきらない深い物語が感じられるのだ。
そして、その他の話も、この映画の中で始まり完結するわけではなく、この映画の時間の前にも後にもつながっていく感じがする。その時間の広がりがこの物語をふくよかなものにする。長い時間の中のほんの一瞬を切り取った物語であることによって、奇妙であるにもかかわらず、非常に近しい物語に感じるのだ。
「奇妙な」というのは、映画の冒頭に車が横転したりという奇妙なエピソードがあるというのと、映画として奇妙であるというのがある。映画として奇妙であるというのは主に間のとりかたが変わっているということであると思う。この映画はいわゆる普通の映画のテンポとは明らかに違うのだ。途中にレインボーカラーのサイケな映像が入るというのもそのひとつだが、それ以外にも長い無言の間があったり、大胆に場面を展開したりというリズムがかなり独特なのだ。
別にそこに思慮深い意図があるというわけではなく、ある種の雰囲気というか、この映画の世界に引き込むための手法としてそのようなやり方がとられているだけだと思うが、それだけにこのリズムになじむことが出来ないと映画から引き離されてしまってすごく退屈になってしまうと思う。『マグノリア』でもそれが感じられ、私は途中の引き伸ばされたまで映画からおいてかれてしまうという印象を持ったが、この作品は非常にテンポよく、しかも短いので、最後までリズムよく見ることが出来た。
その要因のひとつはアダム・サンドラーであると思う。アダム・サンドラーは大人になれない大人を演じるのが得意だし、普段はボーっとしているのに、突然変貌するという役を演じるのもうまい。だからこの役にはまさにぴったり、アダム・サンドラー演じるバリーの変貌するリズムとこの映画のリズムが妙にシンクロしているのだ。
姉たちとの関係という決して語られないが明確に背景として存在するその情緒不安定の核を見ているわれわれは理解することが出来るし、すべてがそこから来ていることもわかる。その上でそれは表面に出さず、他の出来事とどんどん絡み合っていくのだ。そのあたりにニヤニヤし、最後にはキュンとしてしまう。
そのあたりの作り方が非常に巧妙である。それがなんだかよくわからないけど面白いという雰囲気を作り出す秘密なのではないか。