ジョンQ-最後の決断-
2004/8/21
John Q
2002年,アメリカ,116分
- 監督
- ニック・カサヴェテス
- 脚本
- ジェームズ・カーンズ
- 撮影
- ロジェ・ストファーズ
- 音楽
- アーロン・ジグマン
- 出演
- デンゼル・ワシントン
- ロバート・デュヴァル
- ジェームズ・ウッズ
- アン・ヘッシュ
- エディ・グリフィン
- キンバリー・エリス
仕事を減らされて借金がかさみ、妻の車を差し押さえられてしまったジョン、さらに仕事を探すが見つからない。そんな中、ひとり息子のマイクが野球の試合中に急に倒れ、心臓病と診断される。助かるためには心臓移植しかないのだが、ジョンの保険が不十分で費用が足らず、ジョンは家財道具を売り、募金を募るなど金策に奔走するがなかなか費用はたまらなかった…
デンゼル・ワシントンが苦悩する主人公を演じたヒューマン・サスペンス・ドラマ。監督はジョン・カサヴェテスの息子ニック・カサヴェテス。なかなかスリリングだが、少し単純すぎるか。
アメリカの保険制度の矛盾というのは、かなり言われていることである。アメリカには日本のような国民保険制度がないので、完全に任意加入で、しかも保険によって保障にかなり差があったりする。そのあたりは「ER」とか「シカゴ・ホープ」などの医療ドラマを見ていれば、頻出してくる事実なので、アメリカではある種の常識というか、問題視され続けている事実なのだと思う。
そう考えると、この物語は想定としてはかなり有りえる話なわけで、アメリカ人だとすれば、すっと入れる話であるだろうということは想像に難くない。
しかし、それが逆にこの物語の単純さにつながってもいる。すべてがそんなに都合よく進むかよ! と思わせる展開なのである。ジョンQがいくらいい人だといったって、人質となった人たちがあんなに簡単にジョンQに同情し、ジョンQの味方につくかどうか。最終的には同情するにしても、人質となってものの数十分であんなにも犯人とのあいだに一体感を持ちえるだろうか。銃で脅されているという事実は非常に重いものであるはずなのに、それはまったく無視され、ただただジョンQの人間性ばかりが強調されてしまうのだ。
そのようなご都合主義は映画の全体を通して見られる。すべてが結末に向けて都合のよいように進む。それはある種の御伽噺、ジョンQという主人公によるファンタジーである。入り方が悲劇であり、社会問題を扱っているからファンタジーとは異質のもののように感じられるが、どこをどう切ってもファンタジー、夢の世界の物語である。アニメにしたら、ディズニーでもいけるんじゃないかなぁ…
まあ、そんな流れるような物語を撮ることが出来るというのもある種の才能かもしれない。物語の展開は途中でほとんど予測できてしまうけれど、それでも観客を主人公の視点に引き込んで引っ張っていくことが出来る。
ニック・カサヴェテスはこういう社会派!というような作品よりも、純粋なエンターテイメントに才能を発揮する監督かもしれない。そして、アヴァンギャルドの作品よりはオーソドックスな作品に。その意味では父親のジョン・カサヴェテスとはまったく反対ということになる。あるいは、ジョン・カサヴェテスのやっていたことがすでにスタンダードになってしまったから、その息子のやっていることが非常にスタンダードに感じられるのか。
とにもかくにも、この映画、骨太のサスペンスや社会はドラマを望む人にはまったく拍子抜けの内容。しかし単純明快なヒューマン・ドラマを望むなら、それなりに楽しめるという感じ。世の中はこんなに単純ではないけれど、単純な御伽噺に浸る幸せを味わうことも無意味ではない。そんなことを考えさせられる。
それもこれも、デンゼル・ワシントンのなかなかいい演技によるのかもしれない。デンゼル・ワシントンはあらかじめ「いい人」というイメージがついているし、追い詰められた人物を演じるのがうまい。その辺りで映画に力が生まれたのではないかと思う。