スキャナーズ
2004/9/6
Scanners
1981年,カナダ,104分
- 監督
- デヴィッド・クローネンバーグ
- 脚本
- デヴィッド・クローネンバーグ
- 撮影
- ロドニー・ギボンズ
- 音楽
- ハワード・ショア
- 出演
- スティーヴン・ラック
- ジェニファー・オニール
- マイケル・アイアンサイド
- パトリック・マクグーハン
- ローレンス・デイン
あるバーガーショップでひとりの夫人を見つめるだけで卒倒させてしまったベイル。彼は謎の男たちに捉えられ、気づくと古ぼけた建物のベッドに縛り付けられていた。彼は「スキャナー」と呼ばれるテレパシー能力を持つ超能力者のひとりだったのだ。スキャナーを研究するルース博士はベイルを使ってスキャナーと人間の共存を模索しようとしていた…
クローネンバーグの名を世に知らしめたSFホラーの名作。発想が面白くて非常に面白い展開だが、クローネンバーグらしいといえる過剰なグロテスクさが一般からの評価を下げているかもしれない。
ホラーとSFがいわゆる一般映画と比べて低く見られるのには同じ理由がある。それは「リアルではない」ということだ。ホラーの中でも「リアル」な、いわゆるサイコ・サスペンスはデンゼル・ワシントンが出たりして一般にも受け入れられるわけだが、「リアルではない」ホラーはマニア向けのものという感じであまり受け入れられず、評価も低い。SFというのも「夢物語」という先入観があるためか、低く見られがちである。したがって、SFホラーなる代物はそのジャンルからしてB級であることを運命付けられたジャンルなのである。
しかし、SFというのはどうでもいいようなラブ・コメよりよっぽど哲学的なジャンルであり、未来に対して眼を向けるという意味でも、もっとまともに考えられていいジャンルである。そしてそれはホラーにもいえる。ホラーとはつまり「恐怖」を描いたものである。「恐怖」とは『華氏911』の例を挙げるまでもなく、人々を支配することを可能にするほどの力を持つ感情なのだ。
ホラー映画はいたずらに見る人を怖がらせるのではない。それだけならば繰り返しホラー映画を観ることなどない。ホラー映画が与えるのは恐怖の克服の擬似的な体験なのである。身の毛もよだつ恐怖がやってくるが映画の最後にはその恐怖に打ち勝つ。しかし、その恐怖のもとは完全に絶たれたわけではないので、ホラー映画はシリーズ化していく。
シリーズ化していくと、だんだんその恐怖に慣れてきて、あまり怖くなくなってしまう。それはある意味では本当に恐怖を克服することが出来たということだ。それはそれでいいことなのだが、映画はつまらなくなってしまい、そこでシリーズはいつの間にかコメディ路線に方向転換してしまっている。
この『スキャナーズ』もその例に漏れず5作目まで作られている。監督がクローネンバーグではないのが残念だが、この作品も見終われば次が見たくなってしまう作品なのだ。
そして、個人的にはそれがSFと結び付けられることでいっそう興味がわく。オカルトというのは原因のわからない恐怖である。それは恐怖としては一番恐ろしいわけだが、終わったときにいまいち納得いかないことが多い。チャッキーはなぜ人を殺すのか? その理由に説得されるとは思えない。
しかしSFは超常現象のように見えるものでも、すべてに一応論理的な説明をつけようと試みる。この映画の「スキャナー」も「テレパシー」という非科学的な特徴を持って登場するわけだが、物語の最後にはそれが一応説明付けられる。
そのあたりの説明付けの無理のなさというのがSFとしての質、ということになる。これはいわば探偵小説の謎解きのようなもので、そこにスリルがあるのである。
この映画は具体性にはかけるが、とりあえず納得できる。映画の序盤にスキャナーとなる原因がシナプスの異常と説明されるのだが、それがなぜ空間的な離れた他人にまで影響を及ぼすことが出来るのかは説明されていない。そこがうまく説明されていれば、SFとしては満点だっただろう。しかし、想像力を働かせれば、シナプスとは脳内で電気信号を発生させるものだから、それが電磁波のようなものを発生させて無線ランのように他人の脳神経回路と接続することが出来るということなのかもしれないとも考えられる。そんな想像もSFファンにはたまらなく楽しいのだ。
この映画はやはりSFホラーとしては名作中の名作だ。最後の対決シーンもあまりにグロテスクではあるが、ものすごくスリリングで面白い。20年以上前、しかもB級ということで、あまりリアルすぎないのというのもいいのかもしれない。
それにしても、この映画のマイケル・アイアンサンド、ジャック・ニコルソンそっくりだなぁ…