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虹を抱く処女

2004/9/21
1948年,日本,87分

監督
佐伯清
脚本
八田尚之
撮影
小原譲治
音楽
早坂文雄
出演
高峰秀子
上原謙
宇野重吉
若林雅夫
田中春男
三村秀子
preview
 看護婦のあき子は公休日にはいつも音楽家で結核を患っている日高の家を訪ねて、何かと世話を焼いていた。ふたりは恋人ではないが互いに惹かれあっていた。しかし病気もあってなかなか結婚を申し込むまでには行かない。そんな時、戦争中にあき子に世話になったという三津田という青年が病院を訪ねてくる…
 高峰秀子がふたりの男性のあいだで揺れるヒロインを演じたメロドラマ。早坂文雄が作曲した交響曲「虹」がワインガルトナー賞を獲得したことを記念して作られた。
review
 上原謙のバタ臭い顔から結核とはなかなか想像しにくく、映画の序盤では結核だってのにやたらと元気そうだなぁ、と思ってしまうのだが、慣れていくのか、徐々に気にならなくなっていき、どんどんと感情移入してしまう。
 そのひみつはこの映画の展開のうまさにあるだろう。結核の作曲家、献身的に看病をする看護婦、そしてそこに入ってくるもうひとりの男… いかにもなメロドラマ的筋書きだが、それが見事に時代感にマッチして非常に面白く仕上がっているのだ。八田尚之という人はよく知らないが、戦前から活躍している実力派というところだろうか。
 そして、そのふたりの男性のあいだで悩む高峰秀子が主役ということになる。結婚を申し込んどいて、1週間以内に返事をくれというのも相当無理な話だと思うが、高峰秀子演じるあき子は素直にその一週間で結論を出そうとする。周りは勝手なことをいい、いろいろ考えさせられることもあり、あき子は悩みに悩むのだが、そのあたりの高峰秀子はさすがにいい。相手が目の前にいないだけに修羅場などは無いのだが、ひとりでいるときや他の人と話をしているときの表情だけでその心理の揺れを表現していくのだから、この人はやはり大女優と呼ばれるにふさわしい人なのだろう。このときまだ20代前半だが、他を圧倒する力と存在感をすでに備えていたと思う。

 しかし、この映画はそんな高峰秀子を主役に据えている(肩書きの上でも、プロットの上でも主役であることに間違いは無い)にもかかわらず、映画上の重点はあくまでも上原謙演じる日高に置かれている。それはもちろん、この映画が作曲家・早坂文雄のなんたら賞受賞を記念して作られた映画であるからであり、その曲そのものが大きくフィーチャーされているから、自ずと日高に重点が置かれていくのだ。
 そうすると、どうも映画のバランスが崩れそうなものだが、これが何とか持ちこたえて面白い。上原謙演じる日高の悩み/苦悩はあき子の比ではなく、彼はとにもかくにも苦しそうなのだ。もちろん病気の苦しみ、加えて創作の苦しみ、そしてさらに恋の苦しみである。この彼の苦しみこそがこの映画の肝要な部分であり、観客をぐっと引き込むところなのだと思う。
 あき子の苦悩というのが所詮はどっちの男を取るかというようなものであるのに対し、日高の苦労は残りわずかなその命をいったい何に賭けようかという命がけの苦悩なのである。彼はそのまま苦しみの淵に沈んで言ってしまっても仕方が無い。
 しかし、このシナリオの巧妙なところはそこにさらに宇野重吉演じる石塚なるキャラクターを登場させるところにある。この石塚は飄々としていて、しかしどこまでも日高の才能を信じ、日高のことを思っているというキャラクターだ。この彼の存在によって日高は何とか絶望の淵から引き上げられ、生きながらえていく。

 この、彼らが抱える存在の苦悩というものがすごく重く心にのしかかってくる。単なるメロドラマと思ってみていると、ズシンと心に響いてくるのだ。言ってしまえば歯が浮くような台詞だが「人生を考えさせられる」のである。

Database参照
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国別・年順: 日本50年代以前

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