深夜の告白
2004/10/24
Double Indemnity
1944年,アメリカ,106分
- 監督
- ビリー・ワイルダー
- 原作
- ジェームズ・M・ケイン
- 脚本
- ビリー・ワイルダー
- レイモンド・チャンドラー
- 撮影
- ジョン・サイツ
- 音楽
- ミクロス・ローザ
- 出演
- フレッド・マクマレイ
- バーバラ・スタンウィック
- エドワード・G・ロビンソン
- ポーター・ホール
- ジーン・ヘザー
- トム・パワーズ
保険会社の勧誘員のネフは、深夜に会社にやってきて、同僚のレコーダーに自分が犯した殺人の告白を始める。事の起こりは、自動車保険の更新のために訪れたディートリクソンの家で美しい妻フィリスに心惹かれたことだった。後日、再びディートリクソン家を訪れたネフはフィリスから夫の傷害保険の相談を受ける。
ワイルダーがレイモンド・チャンドラーとともにジェームズ・M・ケインの『倍額保険』を脚色し、映画化。地味だが、しっかりとしたミステリー。
ビリー・ワイルダーらしさとは何かと聞かれても、今ひとつなんだかはわからないが、この映画はどこかワイルダーらしくないような気がする。ワイルダーが監督したときかされずに見たならば、この映画がワイルダーの映画と果たして気づくだろうか。「作家主義」に基づいて映画を観るとき、その映画が傑作であろうと駄作であろうと、そこには「作家」の刻印を見ることが出来る。トリュフォーならトリュフォーの、小津なら小津の、ヒッチコックならヒッチコックの「らしさ」がそこにはあるはずだということだ。そして、そのような「らしさ」を持ち、かつその「らしさ」が魅力としてわれわれに訴えかけてくるのが映画作家というものだという気がする。
ワイルダーもそのような映画作家であるに違いないが、彼が映画作家として存在感を示すのは50年代以降である気がする。コメディを中心として軽妙なムードの作品を数々撮るようになってからはその作品を見れば「ああ、ワイルダー」だと感じられるようになった。しかし、この頃はまだ、その刻印が薄いのではないかと思う。
しかし、だからと言ってこの作品が面白くないというわけではない。シンプルな組み立てといい、少ない登場人物で巧妙に謎と謎解きを組み立てあげていくそのやり方といい、ミステリーとして非常に秀逸である。ワイルダーはそもそもチャールズ・ブラケットとコンビを組んで、ルビッチなどの作品のシナリオを書いていたわけだから、ミステリーはお手の物なのである。
この作品は、回想形式をとって結末がわかった上で展開される物語だから、下手をすると退屈なものになってしまう。しかし、その結末に至るまでの展開が見事にスリリングであり、犯罪を犯すネフの心理描写がすばらしいのだ。そしてさらに回想だけですべてが終わるわけではない…
このような秀逸なミステリーを作り上げるワイルダーなのに、そこに「らしさ」というものが刻印されていないのはなぜなのだろうか? ひとつにはこの作品が監督作品としてはまだ第3作だったということがある。戦争中というこの時期に監督をはじめ、自分のスタイルを模索する中で撮られた映画、戦後になって『サンセット大通り』を撮るあたりでワイルダーらしいスタイルというものが見えてくる。もちろん緻密に見ていけば、この作品にもすでに「ワイルダーらしさ」の片鱗を見ることが出来るのだろうけれど、ワイルダーらしいものを期待してみるとどうも拍子抜けという感じがしてしまうのだ。