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疑惑の影

2004/11/4
Shadow of a Doubt
1942年,アメリカ,108分

監督
アルフレッド・ヒッチコック
原作
ゴードン・マクドネル
脚本
ソーントン・ワイルダー
アルマ・レヴィル
サリー・ベンソン
撮影
ジョセフ・ヴァレンタイン
音楽
ディミトリ・ティオムキン
チャールズ・プレヴィン
出演
テレサ・ライト
ジョセフ・コットン
マクドナルド・ケリー
パトリシア・コリンジ
ヘンリー・トラヴァース
ウォーレス・フォード
preview
 何か犯罪を犯したらしい男が追っ手の二人をまいて、電話ボックスにたどり着き、カリフォルニア州サンタローザにある姉の家に「木曜に行く」電報を打つ。その姉の家ではその男と同じ名前の姪のチャーリーが生活の単調さに飽き飽きし、叔父のチャーリーに電報を打ちに行く。
 ヒッチコックらしい心理サスペンスの真髄とでも言うべき映画。ヒッチコック自身もこの作品を気に入っていたようで、無人島に持っていくならこの作品だと言っている。
review
 まず、この映画が展開されるのは「チャーリー(アンクル・チャーリー、以下チャールズ)は何をやったのか?」という謎である。冒頭のシーンで「証拠は残していない」というようなことを言っていることから、何か犯罪を犯したことは確かであるが、それが何なのかはわからない。そして、映画が進むにつれて様々なヒントが出され、それを暴こうとするキャラクターであるチャーリー(リトル・チャーリー、以下チャーリー)も登場する。
 ここのあたりは非常にまっとうなサスペンスである。「隠された何か」を見つけるために様々なヒントを組み合わせて謎解きをする。それは観客の頭の中に次々とパズルのピースが投げ込まれるようなもので、観客はそれを組み合わせていけばいいというわけだ。そして、それをさらに面白くするために、チャーリーの父と隣人という推理小説マニアのペアとチャールズを追うふたりの男が加わる。その謎を解く決定的な鍵はどこにあるのか、観客はそのクライマックスの瞬間を待ち受ける。
 そしてその瞬間は意外にもあっけなくやってくる。チャーリーは簡単に事件の真相にたどり着いてしまうのだ。しかし、実はこのようにチャーリーが真相にたどり着くということは映画の序盤にすでに予告されており、この瞬間からこの映画は新たな相貌を呈し、更なる面白みを発揮していくのだ。
 そこで重要なのは、この物語の転換点において、秘密を持つ者がチャールズからチャーリーへと変化するということだ。自分の犯罪の秘密をひた隠しにしていたチャールズはそれがばれてしまうことでその秘密をチャーリーに明け渡してしまい、今度はチャーリーがそれがばれないように隠さなければならない立場に立たされる。このようにしてサスペンスが二重化されていることこそがこの映画の眼目なのである。

 なぜかといえば、観客は最初、全体を傍観する第三者、映画が提供する謎を解く者として映画に正対する。そしてその立場というのは映画の中のチャーリーの立場に近く、観客は必然的に映画の中のチャーリーの近くに身をおくことになる。そこで突然に、今度はチャーリーが秘密を握るものとして現れてくるのだ。このとき観客もまた秘密を握るものとして映画の中に投げ込まれる。
 ここでは「秘密」をめぐる2つのサスペンスが展開されながら、観客はそれぞれを違う立場において見ることになるという仕掛けがなされているのだ。この構造はヒッチコックの得意技なのだと思うが、この作品はその仕組みを非常にシンプルに、そして洗練させた形で実現させているのだ。この二重化された構造、気づかぬうちに経験する立場の変化によって、サスペンスの面白みも倍化されているのである。
 もちろんその操作は隠されているから、基本的には観客はそれに気づかないはずだ。それに気づかないように映画の中に観客を投げ込むというのがヒッチコックの狙いなのだから、映画を観ている間にそのような操作があることに気づかれてはならない。しかし、映画を観終わって「面白かったなぁ~」と思いながら、そのような構造が「隠されていた」ことを発見するのは、あたかも3つ目のサスペンスを経験しているようなものである。つまり、この映画は内部に二重化されたサスペンスを持ち、さらに映画そのものがもうひとつのサスペンスになるという三重化されたサスペンスと言ってもいいようなものなのだ。 それに気づいてしまったら、もう一度、映画を観て、そのような仕掛けがどのような細部によって構築されているのかを検証せずにはいられない。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ50年代以前

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