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遠い雲

2004/11/15
1955年,日本,99分

監督
木下恵介
脚本
木下恵介
松山善三
撮影
楠田浩之
音楽
木下忠司
出演
高峰秀子
佐田啓二
田村高広
高橋貞二
小林トシ子
中川弘子
桂木洋子
preview
 北海道転勤前に、東京から故郷の高山に一時帰郷した石津圭三は旧知の野島時子と出会う。圭三と時子の姉の冬子とは以前はお互い淡い恋心を抱いていたが、冬子は家を助けるため市議会議員の息子の寺田敏彦と結婚、しかし寺田はまもなくなくなり、冬子は未亡人として寺田の家に残っていた。圭三は友人であった寺田の墓参りに行き、偶然に冬子に出会う…
 木下恵介、高峰秀子、佐田啓二という定番のメンバーに田村高広が加わった静かな雰囲気の恋愛映画。未亡人役の高峰秀子が非常にいいです。
review
 木下恵介が高峰秀子を使い続けたのは、彼女が複雑な心の内を表現するのがうまいからではないかと思う。この映画の高峰秀子はほとんど台詞をしゃべらない。とくに、田村高広演じる圭三と向かい合ったとき、高峰秀子演じる冬子は言葉につまり、ほとんど言葉を発しなくなる。その台詞がほとんどない状況で高峰秀子は見事に冬子の心理を表現する。主には表情で、そして行動や仕草でも。圭三がついに冬子を散歩に誘い出すことが出来た夜、冬子は小間物屋で鍋を買おうとする。日常性を保つことで、圭三との過去から自分を引き離すために鍋を買うというその行為をここに挿入することの見事さは、脚本と監督のうまさだが、小間物屋に向かってかっかっと小走りに走る冬子の心理の機微を表現するのは高峰秀子のうまさだ。
 そして、そこで表現されるのは女の「弱さ」である。男は強く、女は弱い。これがこの映画の基本的なテーマである。木下恵介監督の映画はおしなべて女性に厳しいが、必ずしも女性を弱いものであるとして描いているわけではない。強い女性もいれば、弱い女性もいる。あるいは女性には強い面もあるが弱い面もある。そのように女性の様々な面を描いていくわけだが、この映画ではその弱い面を描こうとしたということだろうと思う。
 そのような意味ではこの作品はすごくオーソドックスで、今見ると前時代的という感じさえする。いわゆる大和撫子とそれを引っ張る男、そんな「日本的」な構図が見え隠れするのだ。しかし、この作品に登場する男たちは決して横暴ではない。意志は強いが、女性に対しては優しい。そのような男性たちが実はこの映画の隠れた主役なのではないかと思う。

 木下恵介が描き続けたのは男と女の「関係」である。それは主に恋人とか夫婦とかいった関係であるが、それ以外にも様々な関係がある。恋愛映画とは普通、男女の心を物語の中心にするわけだけれど、木下恵介は心理を描きながら、それを物語の中心にはすえず、眼に見える関係のほうを物語の中心に据えるのだ。関係とは形式であり、事実である。心理とは眼に見えない幻影に過ぎない。それでも人間はその幻影に押し流され、形式を壊してしまうことがあるわけだけで、そのあたりの関係と真理の関係を、描いていくわけだ。
 この映画でも、冬子の心は圭三に行っているわけだが、関係の上でふたりをつなぐものといえば、むかし冬子が圭三に貸した『狭き門』の本くらいしかない、それに対して圭三の恋敵となる俊介との間には亡夫の弟であり、同じ屋根の下に住んでいるというゆるぎない事実が存在している。果たして冬子はその「弱さ」を克服し「関係」を打破して、自分の心に正直になれるのか? というのがこの映画この映画の核心であると思う。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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