更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー
no image

視覚障害

2004/11/21
Blind
1986年,アメリカ,132分

監督
フレデリック・ワイズマン
撮影
ジョン・デイヴィー
preview
 アラバマ盲聾学校を撮った障害4部作("Deaf & Blind series")の1作目、盲学校のブラスバンドの演奏シーンに始まり、小さい子から高校生くらいまでの大勢の生徒がいる盲学校の様子を映す。
 非常に淡々とはしているが、眼の見えない子どもたちが眼の見える人たちと同じように生活できるようになるには様々な困難があるということが手に取るようにわかる。
review
 映画は小さな子供たちのクラスから始まる。点字タイプで答案を書き、Aをもらったことを喜んで下の教室にいる先生に見せに行く。カメラはその様子をじっと捉える。自分の知っている空間ではそれほど困難なくすごすことが出来るらしいことがわかる。
 そのあと「色の歌」とでもいうようなもので遊ぶシーンが映される。子供たちがそれぞれ色のついたスポンジのようなものを持ち、歌にあわせた立ったり座ったりするのだが、もちろん子供たちに色が見えるはずはない。にもかかわらず、あえてこのような遊びをするのはなぜか。このシーンに限らず、ここの先生たちは「見る」ということを意識的に使っているように思う。彼らにはものが見えないのに「見に行きましょう」というのだ。もちろんそれは言葉に過ぎないとも言えるが、映画全体の印象としてはどうも意識的に使っているように思えるのだ。
 おそらく、触ったり聞いたり匂いを嗅いだりすることでものを捉えようとすることを「見る」という概念であらわそうとしているのだと思う。たとえ眼が見えなくても、頭の中でその像を組み立てることは出来る。そのようにしてものを「見る」ことを彼らは重要視しているのではないかと思う。

 彼らへの教育で重要なことは、少しずつ繰り返し教えていくことだ。それはすべてわれわれの世界がイメージで成り立っていることからくる。われわれはモノを認識するとき、そのイメージを使っている。普段はもちろん意識しないわけだが、特に視覚的イメージがもっとも重要な要素になってくる。あらゆるものをその色と形で記憶し、それを言葉と関連付け、世界を構築する。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、われわれは主に見ることで世界を学んでいくのだ。見たもののイメージを頭の中に詰め込み、それを使って世界を泳ぎ回るのだ。
 そのような世界で眼の見えない彼らが生きることが難しいということは想像に難くない。視覚でモノのイメージを作り上げることの出来ない彼らは、他のものでイメージを作り上げなければならない。しかも、眼の見える人たちの社会で生きるためには、そのイメージは基本的に眼の見える人たちと共有できるイメージでなければならないのだ。目で見る代わりに手で触れ、音を聞いて少しずつイメージを築きあげていく。それにはまさに見てイメージを築く場合の100倍の時間と労力が必要になるだろう。だから彼らの教育は少しずつしか進まず、同じことが繰り返されるのだ。
 何だかまどろっこしい気もするが、そのようなやり方でしか彼らは眼の見える人たちの社会に入っていくことは出来ないのだ。
 その端的な例が女の子が杖を持って歩く練習をする場面だ。先生が付きっ切りで一緒に杖を持ち、決して放そうとはしない。階段を下りる前に体をまっすぐにするという作業をやらせたり、とにかくじっくりと教えるのだ。われわれはそれを「見て」いるから簡単に理解できるけれど、壁も見えず、階段も見えなかったら、そもそも「まっすぐ」という概念を理解することが出来るだろうか? 

 この映画からはいろいろなことがわかる。「まっすぐ」というのもそのひとつだ。今、世の中には「まっすぐ」なものが多い。道はまっすぐだし、壁もまっすぐ、廊下などは基本的に直角に曲がる。しかし、本来的には曲線のほうが人間には優しいはずだ。それをまっすぐにしてしまうのは、空間を効率的に使おうとする人間の考え方だ。
 この容易に世の中が視覚優先に出来上がっているのは、そのほうが効率がいいからである。視覚的な情報がもっとも情報量が豊富で情報交換の効率がいい。だから、われわれは視覚に頼る。視覚に頼ることで社会はスピードアップするのだ。
 われわれは社会をこれほどまでにスピードアップさせる必要があるのか?いま盛んに言われている「スローライフ」とは根源的にはそのような疑問から生じている流れであると思うが、実際のところはただ「ゆっくりする」だけのもの、スピードから来るストレスを緩和するためのものに終わってしまっている。
 社会が人間の限界を超えたスピードで動いてしまっていること、それが問題なのだと、映画からどんどんとはなれながらも考える。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ60~80年代

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ