オランダの光
2004/12/11
Hollands Licht
2003年,オランダ,94分
- 監督
- ピーター=リム・デ・クローン
- 脚本
- マールテン・デ・クローン
- ヘリット・ウィレムス
- 撮影
- パウル・ファン・デン・ボス
- 音楽
- ヘット・パレイス・ファン・ブム
- 出演
- ジェームズ・タレル
- ヤン・アンドリース
- フィンセント・アイク
フェルメールやレンブラントの絵画に描かれたといわれる「オランダの光」、他の地域とは違う独特のものとされるその光が本当に存在するのかを、オランダを代表する映像作家であるデ・クローン兄弟が検証する。
実際に一年にわたって定点観測を続けるオランダの風景のほか、オランダの名画から専門化がその光の特色を説明したり、光の違いを探るために南仏に行ったりと、様々な面から検討がなされる。フェルメールをはじめとした名画が俎上に上がるのも面白い。
レンブレントの作品を見ると、その主役が“光”であることを強く感じる。その“光”がこの映画の主人公である。映画の中ではフェルメールがその“光”をもっともよく表現した作家とされ、その“光”、他の地域とは違う「オランダの光(Holland Licht)」が本当に存在したのか、そして今も存在するのかを検証しようとする。
映画の冒頭に、ジョセフ・ボイスが50年代のその光は失われてしまったと語る。そしてその原因は湖の干拓にあったというのだ。オランダの国土は標高が低いために、空気が湿っていて、直射日光が乱反射を起こし、そこに大きな湖からの反射光が下から当たり独特の空気の色を作り出していたのが、湖の干拓によって湖面が減少したことで、その反射光が失われ、光の性質が変わってしまったというのだ。それれに対して気象学者などはそんなことはありえないと言う。映画は中立の立場を保ち、様々なアーティストの様々な意見を救い上げていく。
そして、映画の中心となるのは、一年間まったく同じ場所からまったく同じフレームで定点観測をした湖面と空の映像、そしてフェルメールの絵画である。定点観測の映像からオランダの風景が季節や時間によって様々な表情を見せることがわかり、時々「これが“オランダの光”かな」と思わせるような鮮烈な光のイメージが写し取られることがある。それは日本の光とは明らかに違うが、オランダに独特のものであるかどうかはわからない。
もうひとつはオランダの名画から光を観察するというもの。確かにオランダの絵画の光の表現は独特で鮮烈である。それをこの映画は見事に映している。これだけ美しい絵画の映像というのはなかなか観た記憶がないが、この絵画の撮影には大きなこだわりがあったらしい。色彩や質感の再現力はどうかわからないが、細密な記録としては本当に見事なもので、実物を見てもここまで細かな表情を見ることは出来ないのではないかと思うほどだ。
この映画に登場する一番の有名人はジェームズ・タレル、アメリカ在住の光をモチーフとした作品を作り続けるアーティストである。日本でも、新潟の十日町や香川の直島に作品がある。彼の光(あるいは空)の捉え方は“光”というモノを考える上で重要な助けになる。
それらの話や、「オランダの光」の存在を明らかにしようとする実験のようなものを観てみても、結論は漠としている。光は存在したのかしないのか、今も存在しているのかしないのか、それは結局明らかにならないが、それは当たり前といえば当たり前のことだ。
映画の最後で若いアーティストが「光はこれまでの作品と私たちの頭の中には存在し続けている」というようなことを言うところに、何か結論じみたものを感じる。「オランダの光」なるものは神話に過ぎないのかもしれないが、それが神話であるにしろ現実に存在する(科学的に実証できる)にしろ、オランダ人の心の中にはその光が常に存在しているということだ。
私たちもレンブラントやフェルメールの作品を見ることで確かにその光の存在を感じるのだから、われわれの心でも「オランダの光」なるのを捉えることが出来るということであり、それならばやはり「オランダの光」は存在するということなのではないかと思う。