下妻物語
2004/12/31
2004年,日本,102分
- 監督
- 中島哲也
- 原作
- 嶽本野ばら
- 脚本
- 中島哲也
- 撮影
- 阿藤正一
- 音楽
- 菅野瑤子
- 出演
- 深田恭子
- 土屋アンナ
- 宮迫博之
- 篠原涼子
- 阿部サダヲ
- 岡田義徳
- 小池栄子
- 荒川良々
- 生瀬勝久
- 矢沢心
- 樹木希林
茨城県の下妻市、田んぼだらけでヤンキーだらけのこの場所で、フリフリのロリータファッションに身を包む竜ヶ崎桃子、ろくでもない父親と尼崎からやってきた彼女はどんなことにも無感動、冷淡で自分でも言うように性根のまがった高校生だった…
乙女のカリスマ嶽本野ばらの同名小説の映画化。実際にあるロリータブランドBABY, THE STARS SHINE BRIGHTなどを使いながら、奇想天外な展開にシュールな笑いを詰め込んだテンポのいいコメディ。
この映画はとりあえず面白い。大人計画の役者なんかを使って、効果的にギャグを排して、コメディとしての完成度を高める一方で、ふたりの女子高生の友情物語という甘酸っぱい青春物語を展開の軸に持ってくる。ひとしきり笑って、少し感動、盛り上がりどころもあり、主役のふたりも魅力的。つまり掛け値なしに面白いというわけだ。
それでもこの映画がキワ物に見えてしまうのは、描かれている世界がフツーの人々には理解されにくい世界であるということだ。ロリータファッションというのは街で眼にしてもなかなか異様なものだし、そんなファッションに身を包む彼女らの心理を想像してみるのも難しい。ヤンキーのほうはもう少し想像しやすい気はするが、それでもやはり日常生活とはかけ離れたところにある印象は否めない。
つまり、この映画には取っ掛かりが少ない。もちろん、嶽本野ばらのファンだったり、ロリータファッションが好きだったりすれば別だが、そうではない人には、わけのわからない映画ととられても仕方がないのではないかと思うのだ。それでもこの映画は面白い。それは、この映画のギャグの質にあるのではないかと思う。TVスポットにも使われた冒頭の深田恭子の「ウンコ踏んじゃった」という台詞に象徴される単純明快なギャグ、それがうまい具合にちりばめられているから、単純にギャグ映画として楽しむことが出来るのだ。そして、徐々に映画の内容に引き込まれていき、主人公ふたりが外見とは裏腹に内面ではフツーの人たちとちっとも変わらないという当たり前のことに気づいていくというわけだ。
まあ、そんなことは解説しなくてもみりゃわかるわけだが、とにかくこの映画はエキセントリックな外見とは裏腹に、非常にわかりやすい映画でもあるということだ。
そして、この映画はなんだかマンガ的である。原作は小説なわけだが、映画のつくりや映像は漫画的。特に画面のつくりや音、それがマンガっぽいのだ。映画やアニメというのは連続する映像なわけだが、マンガというのは1コマ1コマが静止画で、その間は読者の想像力で補うことになる。この映画はそんなマンガの表現方法に非常に近いのではないかと思う。
そのように思う要素はいくつかある。ひとつは、決定的な場面をロングで捕らえることが多いということ。たとえばイチゴが桃子を蹴飛ばすシーンなど、具体的に何が起こっているのかわからないほどのロングショットで彼女たちを捕らえる。このロングショットで台詞のない「間」というのが非常にマンガっぽいと感じた。それは、映画の終盤の喧嘩のシーンにも通じる。喧嘩のシーンが続いている中で、ひとつの台詞をきっかけに画面が切り替わり、牛久大仏を遠くに捕らえたロングショットでゴ~ンと鐘が鳴る。この「間」はまさにマンガの「間」ではないだろうか。
そのように見ていると、出てくる人たちの動きも妙にマンガっぽい、彼らの動きの一瞬を切り取れば、そのフレームがマンガの1コマになりそうなショットが次々と出てくるのだ。
このマンガっぽさによってこの映画が面白くなっていることは間違いない。映像的に面白くなっているというのもあるが、このマンガっぽさによって物語や登場人物の嘘っぽさが救われてもいるのだ。この映画はギャグとマンガっぽさで観客をあっという間に別世界に連れて行く。そこでは作り物じみているとか、信憑性がないとか、そんなことはまったく関係ない。あるものはそのままその通りにあると信じればいいのだ。