初春狸御殿
2005/1/2
1959年,日本,84分
- 監督
- 木村恵吾
- 脚本
- 木村恵吾
- 撮影
- 今井ひろし
- 音楽
- 吉田正
- 出演
- 市川雷蔵
- 若尾文子
- 勝新太郎
- 菅井一郎
- 中村玉緒
- 中村鴈治郎
- 水谷良重
- 楠トシエ
- 近藤美恵子
- 江戸家猫八
- 三遊亭小金馬
- トニー谷
- 真城千都世
- 左ト全
- 和田弘とマヒナ・スターズ
狸のお黒は父親の泥右衛門のために、人間に化けて酒を買いに行くが、人をだますのがいやでたまらない。そんなある日、傘に化けているところを狸御殿の腰元たちに見つかったふたりはそのまま狸御殿に。そして、お黒はその御殿のきぬた姫と顔が瓜二つということがわかり、騒動に巻き込まれていく…
木村恵吾の“狸もの”の5作目。シリーズとしては7作目。今回はオールスター・キャストで正月映画と力が入った作品になっている。
この映画の特徴はといえば、まず極彩色の色調。すべてのシーンが明らかなセットの、というよりはほとんど舞台上かのような書割の背景の前で演じられるが、そのセットの色彩がものすごい。それは登場人物たちの衣装にも通じて、とにかくものすごい色彩なのである。木村恵吾の狸ものではこの作品が初めてのカラー作品。それだけに力が入ったのか、とにかくすごい色の氾濫である。これは今見ると非常に斬新に見える。ある意味ではモダンとも言えるだろうが、モダンというよりはアヴァンギャルド、あるいはエキセントリックな印象がある。
ただ、そのエキセントリックさはこの映画の“祭気分”を盛り上げる。この映画はとにもかくにも祭りなのだ。雷蔵に勝新、若尾文子が出演し、脇役にもにぎやかな面子がそろう。そして内容はといえばほとんどが歌に踊りのステージのごときもの。これはジャンルとしてはオペレッタで、ミュージカルのようなものということになるが、この映画は明らかにミュージカルとは違う。この映画の場合には、歌や踊りのシーンのほとんどは映画のプロットにまったく関与しない。ただただ歌と踊りを見せるためだけに存在しているのだ。私の理解では、ミュージカルというのは歌と踊りによってプロットを進行させていくものであるはずだ。厳密にオペレッタというモノがどんなものかはわからないが、ともかくミュージカルとは違っているらしい。
この映画の極彩色の色調は、そのオペレッタの祭気分に拍車をかける。楽しければいいじゃないか、とでも言いたげにひたすら歌って踊るのだ。そして、そこにお色気が少々加わる。正月って言うのは、どうも伝統的なものと、とことん低俗なものとが混在する不思議な時間のようである。数十年前には大晦日といえば紅白に対抗して裏番組をぶっ飛ばせという低俗番組が定番で放送されていたし、今でも正月の深夜などはなぜかお色気の番組なんかをよくやる。これはなぜなのかよくわからないが、いわゆる「低俗な」ものの活力というのが非常に正月らしいのではないかと思う。
だから、この映画も非常に正月っぽい。今となっては歌われている歌に親しみを覚えることが出来ないのが残念だが、リアルタイムで見れば、そこには果てしないほどの活力があふれていたのではないかと思うのだ。人々のまた一年頑張ろうという活力が、そこに投影されているのではないかと思うのだ。正月映画というと、今となっては客が一杯入るからというだけで家族向けのほんわかかした映画やら、アニメやらがたくさん公開されるけれど、本来はこのような日常とはちょっと違った“祭気分”の作品が上映されていたはずなのだ。この映画はそれほど面白くはないけれど、そんな「正月映画」の典型という気がする。
もうひとつ付け加えるなら、この映画は特撮が案外すごい。狸のメイクはいかんともしがたいが、パッと消えたりするところはひじょうにうまく作られている。50年代の作品としては非常に洗練されたものなのではないだろうか。49年の『花くらべ狸御殿』で円谷英二が特撮を担当していることを考えると、この作品にも関わっている可能性は高い。