桃色(ピンク)の店
2005/1/13
The Shoo Around the Corner
1940年,アメリカ,99分
- 監督
- エルンスト・ルビッチ
- 原作
- ニコラウス・ラスロ
- 脚本
- サムソン・ラファエルソン
- 撮影
- ウィリアム・ダニエルズ
- 音楽
- ウェルナー・リヒアルト・ハイマン
- 出演
- マーガレット・サラヴァン
- ジェームズ・スチュアート
- フランク・モーガン
- ジョゼフ・シルドクラウト
- フェリックス・ブレサート
- サラ・ヘイドン
- ウィリアム・トレイシー
- イネズ・コートニー
- サラ・エドワーズ
ハンガリーはブダペストにある革製品の店マトチェック商会、そこに努める古参の店員クラリクは新聞の広告欄で知った女性と文通するようになり、すっかり彼女のとりこになってしまう。その頃、店にノヴァクという女性が職を求めてやってくる。クラリクは反対するが、オーナーはノヴァクを気に入って雇うことに…
ルビッチが大戦中に撮ったロマンティック・コメディ、リメイクされて手紙がE-mailとなって、『ユー・ガット・メール』ができた。
なんてことない映画と言ってしまえばそれまでだが、ラブ・コメの巨匠ルビッチの傑作のひとつでもある。この作品が『ユー・ガット・メール』として蘇ったように今となってはこのような作品は巷にあふれている。それこそハリウッドの大作から、自主映画レベルの作品までこれに類する物語を題材にした映画は星の数ほどあるとも言っていい。そしてこの映画は決してそれらの映画の中で傑出した展開の面白さやスリルを持っているというわけではない。
しかし、この作品はそれらの物語の原型という意味で映画史的な意味があるのみならず、作品としてもかなり面白い。展開という点で言えば、映画の本筋である恋愛物語に付随する形でクラリクとマトチェックの関係がひとつの面白みを出している。それはそれで容易に推測できる展開ではあるが、このようなひとひねりによってプロットを複雑にし、観客を物語りに引き込んでいくその手法はまさにルビッチらしく、非常に面白い。ただただロマンティックな恋愛物語、当事者ふたりの感情だけが問題になる物語ではなく、その周囲との関係、ひいては社会の状況までもがその物語に関係してくる、そのリアルさが面白いと思うのだ。
これだけ当たり前に、これだけ面白いものを作るというのは実に難しいはずだ。当たり前のことを当たり前に描く、それを当たり前にやるのがルビッチであるのだ。『生きるべきか死ぬべきか』のような主張のこもったどっしりとした作品ももちろんすばらしいが、ルビッチの本というの真価が発揮されるのはこのような当たり前の作品だ。
ちりばめられた笑いも「クスリ」というよりは「ニヤリ」と言ったほうがいいような笑いを誘う穏やかなネタだ。ビロビッチやペピという脇役がそんな笑いの部分を主に担うというのも面白い。
これぞ名画!という感じではないが、何度見ても心があったまり、幸せな気分になれる。ただ、少々ハートウォーミング過ぎるというか、ご都合主義な感じで、物語にそぐわない部分はそぎ落としてしまったという感じがしないこともない。やはり世の中の暗い空気を反映して、できるだけ明るい部分だけを描こうとしたのだろうか?