ベルヴィル・ランデブー
2005/1/20
Les Triplettes de Belleville
2002年,フランス=ベルギー=カナダ,80分
- 監督
- シルヴァン・ショメ
- 脚本
- シルヴァン・ショメ
- 音楽
- ブノワ・シャレスト
- 作画
- シルヴァン・ショメ
- 出演
- ジャン=クロード・ドンダ
- ミシェル・ロバン
- モニカ・ヴィエガ
おばあさんと二人暮しのシャンピオン。おばあさんは何をあげてもため息ばかりついているシャンピオンが実は自転車に興味があったことを知り、自転車をあげる。時はたち、シャンピオンはおばあさんと日夜、自転車のトレーニングをしていた。そして、ついにシャンピオンはツール・ド・フランスに出場することになるのだが、その会場に怪しい影が…
フランス人アニメーター、シルヴァン・ショメの長編デビュー作。癖の強いキャラクターとノスタルジーを感じさせる音楽が強烈だが、映画は心温まるものになっている。
なかなかかわいい子供と子犬として登場したシャンピオンとブルーノがいきなり痩せ細ったグロテスクな自転車走者とアンバランスな体系のデブ犬になってしまうのはフランス人らしい皮肉なのだろうか。それと比べておばあさんのまったく変わらないこと、とりぷれっつがアンナにも老いさらばえていることを考えると、おばあさんもよぼよぼになってもよさそうなものだが、毎日の自転車のトレーニングのおかげかまったくぴんぴんしている。
などなど不思議な部分も多いことは確かだが、登場するキャラクターたちが非常にグロテスクなのは面白い。おばあさんがいつも(寝るときも)厚底靴を履いていることで脚の長さが違っているということを示したり、とにかくいわゆる標準から外れたキャラクターばかりを登場させるのだ。アニメーション自体の質として日本のアニメに遠く及ばないが、それでもこの映画に妙なリアリティを感じるのはこの過剰なグロテスクさのせいなのではないかと思う。
それはつまりそれぞれのキャラクターがたっているということだ。マンガの起源のひとつがヨーロッパにおける有名人の欠点や身体的な特徴を誇張した風刺漫画であることを考えると、このアニメーションはある意味では正統なヨーロッパのマンガの伝統を引いているのかもしれない。描く対象は有名人ではないけれど、マンガというモノが何かを誇張して現実を劇画化したものであるという精神は受け継いでいるといえるからだ。
有名人ではないけれど、ベルヴィルの街がアメリカを風刺したものであることは明らかだ。デブデブの自由の女神がハンバーガーを持って入り江に立ち、歩いている人はシャツから腹のはみ出したデブばかり、おばあさんが立ち寄ったハンバーガー屋はお金がないというとあっさりとおばあさんを店から追い出してしまう。対照的にトリプレッツはフランスに対する誇りに満ちているように見える。カエルを食べるのは愛嬌としても(フランス人は誇りに思っているのかもしれない)、老いても明るさを失わず、身近にあるものから音楽を生み出す。
この映画にははっきり言ってメッセージはないのだと思う。別に映画にメッセージがある必要などないし、そもそもないほうがいいくらいなのだが、それでも映画全体として何かの意味を見出したくなるのが観客というものだ。物語とは何かを語るものである以上、何を語られたのかを明らかにしたくなるというわけだ。そのような意味で、この映画は全体としていったい何なのかと問われれば、それはそんなヨーロッパの明るい伝統に対する賛歌だと答える。
たとえば、ジャック・タチ、実際に『のんき大将』の映像が登場するほか、あちこちにタチを髣髴とさせる描写が登場する。そして最たるものはやはり音楽。この映画をまとめているのはジプシー・ジャズ、ヨーロッパ人の心の故郷ともいえるロマの伝統を引き継いだジャジーなリズム、その創始者といえばジャンゴ・ラインハルトだが、ジャンゴらしきキャラクターがちゃっかり登場している(足でギターを弾いてる人)。
そのような映画だから、これでいい。この音楽とこの映像、それだけあればあとはもう何もいらない。