マシニスト
2005/2/10
The Machinist
2004年,スペイン,102分
- 監督
- ブラッド・アンダーソン
- 脚本
- スコット・コーサー
- 撮影
- シャヴィ・ヒメネス
- 音楽
- ロケ・バニョス
- 出演
- クリスチャン・ベイル
- ジェニファー・ジェイソン・リー
- アイタナ・サンチェス=ギヨン
- ジョン・シャリアン
- マイケル・アイアンサンド
工場に勤めるトレバーはげっそり痩せて付き合いも悪くなって、周りから心配される。トレヴァーは実はすでに一年間眠っておらず、そのことをなじみの売春婦に打ち明けるのだが、その頃、冷蔵庫に張った覚えのない不気味なメモが張られているの見つける…
クリスチャン・ベイルが30キロの壮絶な減量を敢行し、リアルな怖さを実現したサイコサスペンス。その異常なほどに痩せ細った体を見るためだけでも、この映画を観る価値があるかもしれない。
この映画のすごさはクリスチャン・ベイルのやせ細った体に尽きる。そのアバラが浮き、おなかが文字通り凹んだその体は見るだけでぞっとするものだ。それがあまりにリアルなのは実際に減量したからだ。特殊メイクで太らせたり、変形させたりすることは簡単にできるが、細くするのは難しいだろう。CGでもあまりリアルさが出ないだろうから、この壮絶なリアルさを出すには本当に痩せるしかなかったのだ。それを実行したクリスチャン・ベイルの役者根性には拍手を送らざるを得ない。
が、映画としてはどうだろうか。映画全体に漂う緊張感はただならぬものがあるが、果たしてそれ以上のものがあるかどうか。
まずこの映画には映画全体にわたってぎこちなさを感じる。その最大の原因は「眠れない」というトレヴァーが実際は「眠れない」のではなく「眠らない」ということだ。眠いことは眠いのだが、眠りに落ちそうになると物音などに目を覚まされるということを繰り返す。これは眠れない人間の仕草ではなく、寝まいとしている人間のやることだ。そして彼は眠れないということを人に相談することもなく、眠れるように何か対処を考えることもしない。医者に行かないことはもちろん、睡眠薬も飲もうとはしないのだ。
ここで、観客は「眠らない」ことに何か理由があるはずだと気づく。そして、その理由が明らかになっていくことこそがこの映画のサスペンスであり、主プロットなのだとわかるというわけだ。それでも、それが観客を今ひとつひきつけないのは、その理由というのがあくまでもトレヴァーの内部で展開されるからだ。謎を解く鍵となる様々なことは基本的にトレヴァーの幻想であったり、記憶であったりする。つまり、主人公であるトレヴァーが自分自身の内部にある隠されたものを探すというだけの物語なのである。
それは言ってしまえば観客とはまったく関係のない物語である。そのように話が展開するまでにトレヴァーに感情移入できていれば別だが、そのようにうまく観客を導いているとはとてもいえない。それでももちろん、その謎を解くことを楽しむことはできるが、それはスクリーンの中へと入っていく体験ではないから、今ひとつ興が乗らないのだ。
!!ここからネタばれ!!
この映画はトレヴァーの抑圧を幻覚という形で表出させ、それで物語を展開して行っているわけだが、これはおそらくヒッチコック(あるいはヒッチコックの精神医学的解釈)を意識しているのだろう。抑圧が実態として現れ、それが元でサスペンスが展開されるというヒッチコックのプロットをなぞっている。しかし、ヒッチコックなら、ここで幻覚とされているものを実在させたのではないだろうか。そうすることで初めて周囲を巻き込んでサスペンスを展開させることができるのだから。アイバンが実在しているかもしれないと考えることができたなら、この映画はがらりと変わっていただろう。