大頭脳
2005/2/25
The Brain
1968年,イタリア=フランス=アメリカ,100分
- 監督
- ジェラール・ウーリー
- 脚本
- ジェラール・ウーリー
- マルセル・ジュリアン
- ダニエル・トンプソン
- 撮影
- ウラジミール・イヴァノフ
- 音楽
- ジョルジュ・ドルリュー
- 出演
- ジャン=ポール・ベルモンド
- デヴィッド・ニーヴン
- ブールヴィル
- イーライ・ウォラック
- シルヴィア・モンティ
5年前にイギリスで大列車強盗を成功させた“ザ・ブレイン”は新たな強盗の計画を練り、盗んだ金の選択を依頼するためイタリアに飛ぶ。一方、フランスで刑務所に入っていたアーサーは相棒アナトールの助けを借りて脱獄を計画、見事に脱獄に成功して、アナトールにもうけ話を持ちかける…
ジャン=ポール・ベルモントとデヴィッド・ニーヴンというキャストによるクライム・コメディ。同キャストでフランス語版と英語版の2つのバージョンが撮られた。日本に入ってきているのは英語版。
フランス人監督で、フランス映画だと思っていたのに、タイトルクレジットも英語だし、ジャン=ポール・ベルモントもたどたどしい英語をしゃべってるしおかしいなぁ、と思ったらフランス語版と英語版があるということ。この英語版は100分だが、フランス語版は115分あるらしい。きっとフランス語版のほうが面白いんだろうなぁ…
まあ、見れないものは仕方がないので、この英語版について書くと、この作品は英語であるだけでなく、映画全体としてもフレンチ・コメディっぽさが薄い。“大”がつくコメディ作品と言ってすぐに思い出すのはジョン・キャンディが出ていた『大混乱』や『大災難』だが、この作品もドタバタ感という点でそれらの作品と共通点がある。
この作品を撮ったジェラール・ウーリーはこの作品の前に『大追跡』『大進撃』と“大”がつく作品を2本撮っている。もちろんこれは邦題だから、本人がシリーズとして作っているわけではないのだが、この2作品はどちらもブールヴィルとルイ・ド・フュネスというコンビの作品で、シリーズものと考えていいだろうし、この『大頭脳』もブールヴィルが出ているところからして、この2作品から継続するものとして撮られているということは考えられる。ここからは推測だが、この作品にパラマウントのクレジットがあるところを見ると、ジェラール・ウーリーは自分が作ったこの“大”シリーズの世界戦略として、ジャン=ポール・ベルモントを起用したのだと考えられる。これで受ければ一気にアメリカに渡って、同じコンビで続編なり、違うシチュエーションの作品なりを撮ろうと目論んでいたのではないかと。
その真偽はともかく、そんな作品群を日本で子供の頃に観た人が、大人になって、映画配給会社に入って、80年代にジョン・キャンディを見て、「これはブールヴィルだ!」とおもって、つい『大混乱』なんていう邦題をつけてしまった。と、私は思うわけです。
ジェラール・ウーリーの“大”シリーズがアメリカのコメディに影響を与えたなどという推論をするつもりはないけれど、この程度にはつながっているのではないかと。私はもちろんジョン・キャンディの「大」のほうを先に見ているわけで、それよりずいぶん前に撮られたこの『大頭脳』がジョン・キャンディの作品とはまったく関係ないことも知っていながら、ついつい類似点を探してしまい、この作品のブールヴィルとジョン・キャンディをついつい重ねてみてしまう。そんな観客の代表として、くだらないことを想像してみました。
さて、そのような映画だし、話している言葉も英語だから、これをフレンチ・コメディと見ることはなかなか難しい。その上、映画のテンポもいわゆるフレンチ・コメディといわれてイメージするものよりははるかに早く、おっさん臭さも薄い。フレンチ・コメディらしさを追求するならば、きっとブールヴィルとルイ・ド・フィネスが組んだ『大進撃』あたりのほうがぐっと来るのだろう。
この作品はコメディとしての面白さよりも、サスペンスとしてのハラハラ感が勝ってしまっている。もちろん、コメディとしてみなければいけないということはないから、ジャン=ポール・ベルモンド主演のライトなサスペンス、ちょっとお笑いつき。だと考えてみてみれば、結構面白い作品だ。
特に、金をめぐる3陣営の攻防に女がひとり関わってくるという展開は、なかなかスリリングでいい。フランス語版がこの英語版より長く、テンポが遅いだろうと考えると、サスペンスという点では英語版のほうに軍配が上がるのかもしれない。観後感も非常にさっぱりしていてあとくされがなく、いかにも佳作という感じだ。