上海から来た女
2005/3/6
The Lady form Shanghai
1947年,アメリカ,87分
- 監督
- オーソン・ウェルズ
- 原作
- シャーウッド・キング
- 脚本
- オーソン・ウェルズ
- 撮影
- チャールズ・ロートン・Jr
- 音楽
- ハインツ・ロームヘルド
- 出演
- リタ・ヘイワース
- オーソン・ウェルズ
- エヴェレット・スローン
- テッド・デ・コルシア
- グレン・アンダース
船乗りのマイクは馬車に乗った美しい女に目を留める。その女ロザリーが人妻であることを知り、離れようとするが、翌日ロザリーの夫アーサーに船員として雇われ、結局船に乗ることに。そしてそこにさらにグリスビーという不気味な男が乗ってきて…
オーソン・ウェルズ4本目の監督作品。ラスト近くの遊園地での鏡の間のシーンがとみに有名で、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』などで引用されている。2005年、ウォン・カーウァイ監督でリメイクが製作されるとか。
はっきり言って基本的には奇妙な映画だ。
物語の筋からしていわゆる普通のサスペンスとはまったく違う展開をする。それはまず、語り手であるマイクの心理がよくわからないというのがある。言葉ではロザリーのことで頭がいっぱいになり、身動きできないようなことを言っているが、それが何かの行動につながるというわけではなく、ほとんどが衝動的に行動しているようにしか見えないのだ。
そして、他の登場人物たちの心理も何を考えているのかわからないまま、どんどんと話は進んで言ってしまう。とくに、途中からヨットに乗ってくるグリスビーは特に奇妙だ。なぜだかいつも汗ばんで脂ぎった顔をした男、カメラはその汗ばんだ顔を何度も繰り返しアップで捉え、その不気味な笑みを映すのだが、ただただ不気味さがまとわりついてくるだけで、何も明らかにならない。そして、さらに登場するブルースという不気味な男。
彼らはいったい何の意図をもって行動しているのか、それがサスペンスにはなっているのだけれど、そのサスペンスを解くべき存在であるマイクはそれを解くことに拘泥しているようには見えない。それに反してロージーは彼らがマイクを危険に陥れる存在だと警告する。このそれぞれの登場人物のズレがこの映画を複雑なものにしている。
それぞれがいったい何を意図して行動しているのか、そして、それらの意図が向かっている先はどこなのか、マイクが解くべき謎とは結局何なのか。そのような疑問を抱えたまま映画は進み、観客もただただ物語に巻き込まれていく…
私の感想としては、一度見ただけではよくわからない。全体的な不気味さとリアルさ、どろりとした何かどす黒いものの実感はあるが、クロースアップで捉えられる目配せや一つ一つの行動が何を意味していたのかを理解するのは一度見ただけでは難しいのではないか。
オーソン・ウェルズの作品は『市民ケーン』もそうだが、圧倒的な力強さは感じるが、それを理解することはなかなか難しい。
だから、この作品ももう一度観て、はじめてわかることが多く出てくるのではないかと思う。